「吉野町特集 vol.3」で世界にたった1つの「葛道場」を営む、中井春風堂の中井孝嘉さんをご紹介した。
一見クールだが、とても熱い人だ。葛のことなら、何時間でも夢中で話せるだろう。
ちょうど、世界的スポーツブランド・ NIKE のフィル・ナイト社長の自伝『Shoe Dog』を読んでいたこともあり、「たった1人の熱狂が、世界を変える」という言葉を思い出した。
ちょっと脱線するが『Shoe Dog』の話をすると、500ページを超す大著でありながら、一気読みできる面白さとビジネスのエッセンスが詰まっているとして、目下ベストセラーになっている。
元・陸上選手のナイト社長は、運動靴のことになると全てを忘れ熱狂する自分とその仲間を揶揄して、「Shoe Dog」(靴の犬)と呼ぶ。「靴バカ」ともいえる。自分を“バカ”と自嘲しながらも、そこには紛れもないプライド、自分が愛するものに全身全霊をかけることへの矜持がある。
「葛道場」で中井さんと向き合っていると、そんな一途な人だけが持つ、熱い情熱と矜持がひしひしと伝わってくる。その熱にこちらも打たれ、「オレもやるぞ〜!」という気持ちが湧いてくる。熱は伝播する。
そんな熱い人が地域にいると、町は魅力的になるし、楽しい。
そうであればこそ、「私も…」と集まってくるヨソ者も現れる。
若干20才のまだ何者でもなかった1人の青年(フィル・ナイト)の熱狂が、類は友を呼ぶが如くに伝播し、世界的企業にまでなったように。
醒めた土地に、熱狂は生まれない。人も集まらない。
「本気になって、何が悪い!」とは、某有名社長の言葉だが、本気で自分が情熱を注ぐものがあればこそ、その魅力は伝わるし、人も土地も生き生きと映る。
「若いもんが都会に行ってしまう」と嘆くのなら、なぜ若者が去っていくのか、あらためて自問してみる必要がある。「地方には職がない…」は、実は本当の理由ではない場合も多い。
「うちの村には、なんにもねぇ」「こんな町には…」 と、大人たちが言っていたら、若者たちが住みたい、カッコいいと思うわけがない。
逆に溢れんばかりの情熱で、自分の誇りと“バカ”さ加減を(!?)伝えられたら、「ここって実は、結構スゴいんだ」と若者も感じる。仮にすぐには伝わらなくても、一度都会に出た後に、その良さに気づき「帰ろかな…」と思うこともある。
中井さんの話を聞いていると、そんなことにまで想いが広がる。
食との出会いは一瞬でも、楽しい記憶は一生もの。
やはり、吉野へは行った方が良い。