美しき日本を求めて。アラン・ウェスト 日本画の世界 〜 In Seach of Japan's Beauty

東京下町の風情を残す「谷根千(やねせん)」(谷中・根津・千駄木エリア)。JR上野駅からウォーキングがてらフラリと歩いていける距離に、まだこんな場所が残っているのかと… 思わせてくれる。
週末になると、駅周辺の国立美術館や上野公園は大勢の人でにぎわうが、その喧騒をぬけて「谷根千」にいたれば、いっきにタイムスリップしたような空間となる。

できれば、うっすら暗くなる日暮れどきがよい。つよい陽ざしのもとでは隠れている、このまちの「味」が出てくるから。ところ狭しと小さな寺院がひしめき、ときに声明が聞こえてきたりする。

そんな独特の雰囲気をもつ谷根千はいま、“通なひと” の心をとらえ、古民家を改修したカフェやオシャレな雑貨店で賑わっている。まち行く人には、若い女性グループや海外からの旅行者とおぼしき人も多い。

そんな界隈に、ひっそり佇むアトリエがある。陽が沈むと入口にぼんやりと灯りがともる。あまり都心ではお目にかかれない幽玄の趣がある。アトリエの主は、アメリカ出身の日本画家、アラン・ウェスト氏。十津川村の古民家ホテル『大森の郷』を監修した、アレックス・カー氏とも旧知のウェスト氏に 「In Search of Japan’s Beauty 〜 日本の美しいもの」 について訊いた。

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【目次】
1. 理想の顔料を求めて、日本へ。
「最初、日本には少しいたら十分だろう… と思っていた。」

2. 影を追いやって、日本は大切なものを失った。
「日本文化の美に関していうと、とても大きな悪影響を与えた1人は、松下幸之助さんだと思います。」

3. 美しき日本を求めて。
「日本の若い人の方が、これからは期待できるのかもしれません。」

「最初、日本には少しいたら十分だろう… と思っていた。」 理想の顔料を求めて、日本へ。

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Allan West:アメリカ・ワシントンD.C.出身。1981年 カーネギーメロン大学芸術学部絵画科入学、翌1982年 初来日。1990年 東京芸術大学日本画課入学(加山又造研究室)。 1992年 同大学大学院 修士課程卒業。日本国内の著名ギャラリーでの個展開催のみならず、欧米諸国、ロシア等で外務省依頼行事での作品制作・展示。近年は、海外アーティストや能など他ジャンルとのコラボレーション作品を手がけるなど幅広く活躍。「故郷ワシントンのように風情があって好き」という下町情緒を残す東京・谷中にアトリエを構える。

アランさんはアメリカのワシントンD.C.ご出身で、幼少のころから絵を描きつづけ、高校生のころには個展を開くほどの腕前だったと聞きました。全米屈指の芸術大学・カーネギーメロン大学芸術学部に進学するも、1年終了時にはもう「日本に行く!」と決心される。

その経緯、なぜ日本行きを決めたのか、教えて下さい。

ウェスト  はじめにこういうと、ガッカリされてしまうかもしれませんが、私はもともとは、日本という国そのものに惹かれて来たわけじゃないのです。というのも、私が描きたいと思うのは、幼いころから常に「自然」でした。

それを少しでも良く、納得いくように描くために、いろんな素材を試し、自分でもオリジナルの塗料をつくっていました。その1つが、自然素材を生かした膠(にかわ)と顔料です。

ところが、高校生のころに開いた展覧会で来場者から、「これは日本の顔料を使ったの?日本にはこれとよく似たものがある」といわれました。

「これは自分が発見したものだ〜!」と思っていたのに、実はすでに発明した人が別におり、それを生かす技術をもった人や地域がある……。 驚きました。

そう知ってから、日本、特に日本画の存在を意識し出しました。

正直なところ、当時は「日本には少しいたら、それで十分だ」と思っていました。それがまさか、こんなに長い付き合いになるなど、思いもしていませんでした(笑)
 

「第1話」のつづきを読む

「日本人の生活から影を無くしてやる!」とでもいわんかの勢いで、蛍光灯を普及させたのは、日本の美にとって明らかに良くありませんでした。

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ウェスト  こんなことを言うと多くの日本人に怒られてしまいますが、私は日本文化の、ことに美に関していうと、とても大きな悪影響を与えた責任ある人の1人は、松下幸之助さんだと思っています。

勿論、実業家としてとても素晴らしい方だというのは言うまでもありませんが、まるで「日本人の生活から影を無くしてやる!」とでも言わんかの勢いで、日本中にくまなく蛍光灯を普及させ、生活シーンから影(陰影)を追い出してしまった。

こと日本の美に関して、これは明らかに良い影響を与えませんでした。

朧な灯りのもとで陰が揺らめき、箔や色が違った顔を見せる。
暗がりがあるから、ものへの畏れや想像力がかきたてられる。

強い明かりで隅々まで照らし、本来、見えなくてもよい、それまでは気づかずおれたシミまで徹底的に無くそうとし始めた。

これにより化粧品メーカーは恩恵を受けたかもしれませんが、日本文化や日本人の感性に与えた影響は少なくなかったと思います。

「第2話」のつづきを読む

「日本の若い人の方が、これからは期待できるのかもしれません。」

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ウェスト  私もアレックス・カーさんの『美しき日本の残像』は読みました。出版当時の日本の状況に、カーさんは本当に失望していたようですね。司馬遼太郎さんのような一部の人を除いては、ほとんど聞く耳を持たないような状況でしたから。

でも今になってようやく、時代が彼のほうに向いてきているのではないでしょうか。

彼が心血を注いだ徳島県祖谷の『篪庵』(ちいおり)だけでなく、長崎や香川などでも町づくりのアドバイザーとして活躍しているようです。

そんな辺境な地にも海外からの旅行者が増え、それがまた日本のメディアや町づくりに携わる人の関心を集めています。

ーー それにしても、アランさんにせよカーさんにせよ、どちらも外国からの来訪者です。岡目八目とか灯台下暗しといいますが、外からみた方が先入観のない眼で、文化の価値や美を観察することができるのでしょうか?

本来なら日本人自身が誰よりもよく自らの文化を知り、受け継ぎ、語ることができないといけないのですが……。

「第3話」のつづきを読む

「繪処 アランウエスト」
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【住所】東京都台東区谷中1−6−17
【開館時間】13:30~16:30(日曜日のみ 15:00〜16:30)
【休館日】木曜日