「美しい」と「美味しい」を届けるために、今、我々がすべきこと

「日本の魅力は、ローカル(地方)にこそあり」「その魅力を十分に伝えられていないのではないか?」「“つくる人”と“食べる人”の距離が、離れすぎてしまっている…」地方と食については様々な意見がでるが、現状が良いとはいえないという点では一致する。
ではもう少し具体的に、どこの何が問題で、どうすれば解決に近づけるのか? 机上の空論ではなく、現場の実践者の声から何か有意義な改善策は見いだせないのか?

そんな問題意識のもと「地域」「流通」「飲食店」「メディア」という異なる立場から「もっと“美しい”と“美味しい”を届けるために、今、必要なこと」について語った。

【対談者】
● 「日本で最も美しい村」連合 常務理事 長谷川昭憲
● 「つきぢ田村」3代目店主 田村隆
● 「東京魚市場卸協同組合」理事、(株)大政本店 代表取締役 小槻義夫
● 「にっぽんマルシェ連携機構」事務局長 渡辺貴  (敬称略)

日本で最も美しい村連合_長谷川理事
長谷川昭憲 「日本で最も美しい村」連合 常務理事。国立ペルージャ外国人大学教授、国立ナポリオリエンターレ大学および国立ローマ大学講師等を歴任。イタリアでの生活は32年におよぶ。

渡辺  本日はよろしくお願いします。田村さんには、こんなに立派な料理もご用意いただいてありがとうございます。

田村  今回はじめて奈良県十津川村の「秘境キノコ」を知りましたが、ズシリと重量感があります。そして見た目のインパクト。このボリュームをまずは食べる人にも感じて欲しい。

長谷川  これは「日本で最も美しい村」の1つ、十津川村から届きましたが、現在「最も美しい村」連合には全国63の町村が加盟しています。それぞれにこうした食材や特産物がある。しかし、それらをこれまでは、うまく伝えられずにいました。

「最も美しい村」とは、本当は「楽しい、美味しい、美しい」なんです。この3要素を届けられてこそ「日本で最も美しい村」といえる(長谷川)

 
渡辺  私は常々「日本の魅力は、ローカルにこそあり」と言っていますが、例えば、フランスやイタリアの有名レストランの多くは、ものすごい田舎にあって地域に(経済的にも文化的にも)多大な貢献をしています。日本人シェフの多くも若い頃、そんな所へ勇んで修行に行くのに、帰国すると皆、東京や大阪などに集まる。もう少しシェフの目も、地方に向いて良いと思うのですが。

田村  最近はだいぶ変わってきているのを感じます。実際に産地を訪ねるのは勿論ですが、料理人同士で勉強会などもしています。そういう所とうまくつながっていくと、産地にとっても料理人にとっても良いと思います。

長谷川  村側でも自ら首都圏にアンテナショップを出しているところもありますが、経費的なことを考えるとそう簡単にはいきません。その点、今回のように、直接、市場関係者や料理人の方々とつながる窓口をつくって、バックアップして下さるのはとてもありがたいです。

“村の方は、結局、何をアピールしたいのか?伝えたいことは、何なのか? 料理人同士で勉強会をしたりするけど、そういう所とうまく連動できるといい” (田村)

 
田村  実際、先日いただいた『日本で最も美しい村』の本を拝見しましたが、どの村もとても素晴らしい。先月も長野のある村にお邪魔して、こんなに(指でピンポン玉大のサイズをつくり)大きなナメコをつくる場所を見てきましたが、ああいうのを見て、栽培の手間・苦労を知ると、厨房でも「おい、ひとつまみ入れとけ!」とか軽々しく言えなくなりますね(笑)

小槻  入口が料理であるのか、食材であるのか、あるいは美しい景観であるのか。そのきっかけは何であれ、なんらかのつながりを持った人が、実際に村を訪ねてくるようになれば、村にとっては大きな財産でしょう。


田村隆 築地の名店「つきぢ田村」3代目店主。調理場で腕を振るう一方、TV・雑誌等で幅広く活躍。2010年「現代の名工」厚生労働大臣賞受賞。著書にエッセイ「隠し包丁」(白水社)、「日本料理の基本」(新星出版社)他多数。

十津川村キノコ料理_つきぢ田村

「日本で最も美しい村」加盟、奈良県十津川村の「秘境キノコ」を使った料理4品。(左上から時計回りに)「エリンギの天ぷら」「ナメコとゼンマイの煮物」「エリンギとオリーブオイルのすき焼き」「シメジとノドグロの酒蒸し」 (調理:つきぢ田村)

大政本店_小槻社長
小槻義夫 築地市場内、唯一の茹でダコ専門店「大政本店」代表取締役。タコ専門の流通事業者であると同時に、自ら茹でダコを製造する「生産者」でもある。東京魚市場卸協同組合 理事、築地魚河岸事業協議会 理事。

長谷川  移住となるとそう簡単にはいきませんが、「食」というのは非常に分かりやすい上に、訴求力が強く、誰しもにメッセージを届けられます。どの村にとっても、非常に大切な要素です。

田村  その際、大事なのは、「結局、何を伝えたいのか?アピールしたいのは、何なのか?」ということですね。厳しいことをいうようですけど、村に行って、話を聞いても、「で?」となることが、少なからずあります。

料理するときも「この素材の1番の魅力は何か?」をまずは見て、考えます。今回の十津川村のキノコでは、やはりこのボリューム感を伝えなければ意味がないから、細かく切ったりはせず、大きいものは大きいままに、ただし食べやすいように、隠し包丁を入れキノコの繊維は切っています。

“料理屋は生き残るために1軒1軒、個性を磨いてきた。大きいことは良いことだ、みたいな考えに NO をいう、規模よりも特徴・強みを生かすやり方があっていいじゃないか” (小槻)

 
渡辺  魅力や強みを伝える上では、村の当事者がしっかり語れるというのが第一ですが、それを伝え広める我々メディア側にも大切な役目があると考えています。

やはり生産者1人1人が皆、自分のモヤモヤした気持ちをキレイに説明できるわけではありませんから、言葉の断片から意図を察し、行間を埋めていく、深掘りする仕事が必要になるのだと思います。

小槻  築地でも似たことが言えます。外からみると築地市場というのは、世界に冠たる大市場でしょうけど、実際には小さな事業者の集合体です。従業員10人にも満たない零細企業がたくさんある。それらが600社も集まっているから、外からは「世界一の築地市場」になっているのです。

料理屋は料理人が1人1人、個性と技を磨いてお客さんを惹きつけてきた。「つきぢ田村」もそうでしょう。先々代・田村平治さんからの家訓で「店は増やすな」と言われてきた。

我々も魚屋、八百屋(やおや)の本分を守りつつ、個性や特徴、強みを磨いていかなければならない。「大きくすることがいいことだ」みたいなものに No(ノー)をいう気概は持っていないと、と思います。

“魅力や強みを伝える上では、村の当事者がしっかり語れるのが第一ですが、それを伝えるメディアも、誰が、どんな想いで、何をしているのか… 深掘りする仕事が求められている” (渡辺)

 
渡辺  マグロ屋はもちろん、貝しか扱わない会社、エビ専門、タコ専門… 皆が一芸を磨くようにして共存していますからね。その結果「築地って、凄い!おもしろい!」になる。

田村  各村の皆さんが、何を伝えたいのか。届けたいのか。焦らずに、しっかりと強みを磨いていく。我々、料理人も同じこと。今さら焦っても仕方がない(笑)

それぞれの良さを持ち寄って、お客さんにもっと喜んでもらえるような形にしていく。それにはやはり、作り手自身が、熱い想いをもって自らを語れないといけないね。

長谷川  自らの強みを磨きつつ、「餅は餅屋」で横(協力者)と連携しながらやっていく。今後ともよろしくお願いします。

一同  よろしくお願い致します。

にっぽんマルシェ_渡辺
渡辺貴 築地市場の“中の人”として、10年に渡り全国の産地や食材のプロモーションを手がける傍ら、三陸被災地の応援職員として行政内部からの地域づくり、事業者連携にも携わる。2018年「にっぽんマルシェ連携機構」設立。

「日本で最も美しい村」〜 奈良県 編

 

編集後記) 地方と中央、売り手と買い手、生産者と消費者。互いに相手を必要としているのに、実はあまり相手のことを知らない。興味がないわけではないが、億劫だからか、相手への遠慮か、あるいは良きパートナーがいないのか、いずれにせよ“気にはなるけど、良く知らない人”のまま来てしまった。

結果、売り買いだけの関係に終始し「カネの切れ目が縁の切れ目」だったりする。なんとかならんものか… と、ずっと考えてきた。市場で働き、生産者のもとに通い、ついには村役場でもお世話になった。知れば知るほど、互いを必要としているはずなのに、想いはすれ違う。「好きなら、好きっていいなさいよ!」で片付いたりはしない。

それでも、徐々にではあるが、聞く耳をもってくれる人が現われ、「それならちょっと…」と対話が生まれた。今回登場してくれた3名は、その代表者だ。これで全てが解決する訳ではない。田村さんがいうように「焦らずに、しっかりと強みを磨く… 今さら焦っても仕方がない」のだ。

それでも、地方の(そして市場でも)課題は待ったなし。市場関係者の話し合いは進み、取引先の紹介がされ、料理人との連携も始まった。「悠々として急げ」だ。もし、「うちの村も紹介して欲しい」というところがあったら、お声がけください。

なんでも出来るとは言いませんが、話すべきパートナーを見つけることは、出来るはずです。今後の進展は、随時アップデートしていきます。

「にっぽんマルシェ連携機構」 事務局長・渡辺 貴

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