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【特別対談 #1】日本画家 アラン・ウェスト 〜 理想の顔料を求めて、日本へ

東京・谷中の一角に、陽が沈むとぼんやり朧な灯りのともる日本家屋がある。アメリカ出身の日本画家、アラン・ウェスト氏のアトリエだ。
幼少の頃から絵を描きつづけ、高校に入ると個展を開くほどになっていた青年は、なぜ日本に来ることになったか? 「少しいたら十分…」と思っていた日本に30年以上も滞在することになり、芸大の恩師からは「日本画界の刺激になってほしい」といわれるまでになった。その背景には、なにがあったのか?
日本画を通して「日本の美」を見つめ続ける、アラン・ウェスト氏に訊いた。

「美しき日本を求めて。アラン・ウェスト 特集ページ」はこちら


ーー アランさんとお会いしてから、もう3年になります。当時、私の自宅がこの近くにあり、フラフラ散歩していたら「なんだここは!」と。独特の雰囲気があるこの界隈でも、ここはより一層その密度を濃くしたような、ただならぬ空気を漂わせていました(笑)

ウェスト そうですか?(笑)

ーー 扉を開けるのに、ちょっとというか、かなり勇気が要りました。恐るおそる入ってみると、アランさん自身が「こんにちは」と迎えてくれて。「あっ、大丈夫だ」とすぐに安心できました。

ウェスト どなたでも、気軽に立ち寄ってくださればいいのです。入館料もいりませんし。

ーー ものすごく(来訪者にとって)贅沢なことです。ここはコンパクトながら、すごい至近距離でアランさんの作品を感じられる。絵を視るというより、アランさんの曼荼羅世界に体ごと入りこむかのようです。

「最初、日本には少しいたら十分だろう… と思っていた。」

allan_west2Allan West:アメリカ・ワシントンD.C.出身。1981年 カーネギーメロン大学芸術学部絵画科入学、翌1982年 初来日。詳しいプロフィールはコチラ

アランさんはアメリカのワシントンD.C.ご出身で、幼少のころから絵を描きつづけ、高校生のころには個展を開くほどの腕前だったと聞きました。全米屈指の芸術大学・カーネギーメロン大学芸術学部に進学するも、1年終了時にはもう「日本に行く!」と決心される。

その経緯、なぜ日本行きを決めたのか、教えて下さい。

ウェスト  はじめにこういうと、ガッカリされてしまうかもしれませんが、私はもともとは、日本という国そのものに惹かれて来たわけじゃないのです。というのも、私が描きたいと思うのは、幼いころから常に「自然」でした。

それを少しでも良く、納得いくように描くために、いろんな素材を試し、自分でもオリジナルの塗料をつくっていました。その1つが、自然素材を生かした膠(にかわ)と顔料です。

ところが、高校生のころに開いた展覧会で来場者から、「これは日本の顔料を使ったの?日本にはこれとよく似たものがある」といわれました。

「これは自分が発見したものだ〜!」と思っていたのに、実はすでに発明した人が別におり、それを生かす技術をもった人や地域がある……。 驚きました。

そう知ってから、日本、特に日本画の存在を意識し出しました。

ーー 日本文化や日本画にひかれたというより、もっと具体的に、顔料について知りたかった。

ウェスト  自分の描きたいもの(自然)が明確にあり、それを表すのに適した絵の具、道具がある。そのことがとても重要でした。

ーー それでも、まだ大学1年生。まして当時は今のように、インターネットでなんでも調べられる時代ではなかったはず。いろんな不安や 「止めておこう」 という理由は、いくらでもあったと思います。それでもなお、「行こう」と思えた理由は何なのでしょう?単に「日本に似たものがある」だけでは、なかなか一歩を踏み出せない気がします。

ウェスト  当時、アメリカの芸大では人をデッサンするのがトレーニングの中心でした。来る日も来る日も人を描いて訓練する。それが芸大の授業でした。でも私が本当に描きたかったのは、自然です。それゆえに顔料も工夫し、どうしたら自分の目指す絵を表現できるか考えてきました。

そう教授にいっても、当時のアメリカの大学では、自然はテーマにはならず、評価もされませんでした。とてももどかしい思いを抱いていました。

僕にとって絵は、大袈裟に聞こえるかもしれませんが、表現の自由だったのです。自分の描きたいもの(自然)が認められず、評価もされない。そんな環境にいる一方で、日本にはそれを育んできた文化と土壌がある……。

ーー もう行くしかないという思いだったのでしょうか? でも、日本にツテがあった訳でもない。日本語も分からない。日本に行くのは良いが、具体的にどこへ行って、どうしようとされたのですか?

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ウェスト  とりあえず芸大があれば(芸術大学がある町ならば)、近くに画材屋があるだろうと考えました。日本という国、日本文化全体への興味というより、顔料そのものと、それを生かす技術を知ることが目的でしたから。

正直なところ、当時は「日本には少しいたら、それで十分だ」と思っていました。それがまさか、こんなに長い付き合いになるなど、思いもしていませんでした(笑)

 
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