旅に出たときの楽しみの1つが、ご当地グルメとの出会い。今や各地でしきりにメニュー開発が進んでいますが、その土地ならではの食材を生かした、地元のお母さんたちによる郷土料理を目にすると、つい応援したくなります。そうした料理は大量生産できないので、パーキングなどではお店の片隅に追いやられがちですが、こういう品こそ大切にして欲しいといつも思います。
だからこそでしょう、瀬戸内海の岩城島(愛媛県上島町)を訪れるとき、農家レストラン『でべそおばちゃんの店』に寄るのを、非常に楽しみにしていました。看板メニューは島の特産・レモンを生かした「レモン懐石」。はたしてその内容は…?
ちなみに “でべそ” とは、地元の言葉で「でしゃばり」の意味。その名のとおりお店のおばちゃんたちが、グイグイと(というより休む間もないマシンガンのように!?)トークを繰り出してくれます。
レモンの島の「でべそおばちゃん」たち。「あんたらも一緒に料理するんじゃろ? 料理するのにエプロンも持たんで来たの?」 初対面でものっけから遠慮なし。すぐ懐に抱き入れてくれます。
「男は体裁ぶってて、動かん!」でべそおばちゃんが、喝!!
「レモン懐石」には、岩城島特産のレモンを「これでもか!というぐらい使った」(代表の西村孝子さん)料理がズラリ11品も並びます。その内容を紹介するだけで立派な読みものができ上がりますが、実はここにはもっと大事なことがあったのです。それは…
“ 失敗しても、おしりパンパン払えばいい!”
「男の人は体裁ぶってて、動かん! 私ら女は、な〜んも考えんでドンドンやって、失敗してもおしりパンパン払えばいい。そして、次またやり直す。そうやって、ずっとやり続けてきたんよ!」(「でべそおばちゃん」西本優子さん)
まさに「Just Do It」。NIKE の社長にいわれるまでもなく、このおばちゃんたちは島の魅力を伝えるべく、そして自らが楽しむべく、Try し続けてここまで来た。そんなこんなのよもやま話を、一緒に調理する間も、まるで漫談を演じるかのようにたっぷり聞かせてくれます。
岩城名物・レモンポークをスライスレモンで包んだ「豚(トン)だレモン」(手前)と地場産ひじきを湯がく際にレモンを絞った「ひじきのレモン和え」(奥)
よく聞くとかなりきわどい発言があるのですが、そんなことは「でべそおばちゃん」には関係なし! なかでも豪放磊落なメンバーの1人、西本さんにとって、“協議” や視察ばっかりで、いっこうに行動が伴わない男衆を見るのは、腹立たしくて仕方がないご様子。
「うまく行くかなんて、やってみないと分からない。やってダメなら、次はもっとうまくやる!」 まるでベンチャー企業の経営論ですが、こんな人こそが地域に灯りをともしていく。
論より証拠。走りながら考えて、活気を生む!
当然、そこまで言う以上、おばちゃんたちの言葉には行動がともないます。島のお祭りに料理を出品・販売するのはもちろん、島を飛び出して、農水省主催の料理コンテストにも果敢にチャレンジ。1998年には「レモン懐石」をひっさげて、「アイデアメニュー部門」で 農水省食品流通局賞 を勝ち取りました!
そんな彼女らの行動に押されるように行政も動きだし、個人宅の飲食店としての利活用を禁じていた食品衛生法を緩和し、西村さん宅での開業を許可します。なんと、「愛媛県夢提案制度」の県内適応 第1号が「でべそおばちゃんの店」なのです。
「もう、なんども役場におしかけて行って、ギャーギャー言って。周りは、またあのおばはんたちが来た…って煙たがっていたでしょうけど」と、西本さんは豪快に笑います。
「でべそおばちゃんの店」では「レモン懐石」を食べるだけでなく、一緒に料理して楽しむことができる体験施設。こうして島の食文化伝承にも貢献している。
「でべそおばちゃん」の名誉のためにお断りしておくと、おばちゃん達は勢いだけで走り続けたわけではない。それぞれがレモン農家でもあるメンバーが、地域の宝を島外へ発信するためには何が必要か、走りながら考えてきた結果です。
失礼を承知でいうなら、地域活性化には「若モノ、ばかモノ、よそモノ、プラス女性」の力が必要といわれますが、「でべそおばちゃん」たちはこの4役を1手に担っている。
気持ちが「若モノ」で、ときに「ばかモノ」と化して熱気を生む。島へお嫁にきた「よそモノ」だから、島の魅力がよく分かるし伝えたい。そして「女性」の技を生かしてレモン懐石を考案した。そのおかげで、橋もかかっていないこの離島の小さなお店に、開業以来2,000人を越す人が訪れ、料理と交流を楽しんでいる。
「でべそおばちゃん」たちの誇りであり、島の宝でもある「レモン懐石」
懐かしさの記憶が、しあわせのレシピになる
農家レストランの紹介なのに、料理紹介をせぬまま終わりそうです。「レモン懐石」のメニューについては、他にもたくさんのメディアで取り上げられているので、そちらを調べてみて下さい。それよりも……
なぜ、ここでの料理が、こうもおいしく感じるか? 別に技巧を凝らした、プロ料理人の料理ではない。アッと驚く仕掛けがある訳でもない。それなのに「あ〜 楽しかった」と満足して帰ることができる。「おいしかった」より「楽しかった」?
「でべそおばちゃんの店」には、食事をしに来るのだけれど、いただくのは料理だけじゃないのでしょう。「おばあちゃんち」に上がり、お座敷でおしゃべりしながら食事する。その時間が心地よいから、おいしさが増す。初めて来たはずなのに、“初めてじゃない”。
懐かしさの記憶が、おいしさのレシピのようです。
その隠し味が食事を楽しく、人をやさしくしてくれる。
そんなこと、最近感じてないなぁ… と思ったら、「青いレモンの島」へお越しください。
農家レストラン「でべそおばちゃんの店」
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【住所】愛媛県越智郡上島町岩城3057
【TEL】 0897-75-2843
【営業時間】11:00~14:00(注:完全予約制です)
【定休日】年末年始、お盆
※ 必ず事前にお電話にてご予約ください
岩城島産 100%ストレート『レモン搾り』には、搾りたてレモン6ヶ分の果汁(無添加)が詰まっています(150ml入 480円)
※ 生レモンの出荷は終了しました。次回は秋(10月目安)再開予定です