岩城島「でべそおばちゃん」

【岩城島 #4】町の記憶がおいしさを生む 〜 レモンの島のおふくろの味

旅に出たときの楽しみの1つが、ご当地グルメとの出会い。今や各地でしきりにメニュー開発が進んでいますが、その土地ならではの食材を生かした、地元のお母さんたちによる郷土料理を目にすると、つい応援したくなります。そうした料理は大量生産できないので、パーキングなどではお店の片隅に追いやられがちですが、こういう品こそ大切にして欲しいといつも思います。

だからこそでしょう、瀬戸内海の岩城島(愛媛県上島町)を訪れるとき、農家レストラン『でべそおばちゃんの店』に寄るのを、非常に楽しみにしていました。看板メニューは島の特産・レモンを生かした「レモン懐石」。はたしてその内容は…?

ちなみに “でべそ” とは、地元の言葉で「でしゃばり」の意味。その名のとおりお店のおばちゃんたちが、グイグイと(というより休む間もないマシンガンのように!?)トークを繰り出してくれます。

岩城島でべそおばちゃん3人衆

レモンの島の「でべそおばちゃん」たち。「あんたらも一緒に料理するんじゃろ? 料理するのにエプロンも持たんで来たの?」 初対面でものっけから遠慮なし。すぐ懐に抱き入れてくれます。

「男は体裁ぶってて、動かん!」でべそおばちゃんが、喝!!

「レモン懐石」には、岩城島特産のレモンを「これでもか!というぐらい使った」(代表の西村孝子さん)料理がズラリ11品も並びます。その内容を紹介するだけで立派な読みものができ上がりますが、実はここにはもっと大事なことがあったのです。それは…

“ 失敗しても、おしりパンパン払えばいい!”

「男の人は体裁ぶってて、動かん! 私ら女は、な〜んも考えんでドンドンやって、失敗してもおしりパンパン払えばいい。そして、次またやり直す。そうやって、ずっとやり続けてきたんよ!」(「でべそおばちゃん」西本優子さん)

まさに「Just Do It」。NIKE の社長にいわれるまでもなく、このおばちゃんたちは島の魅力を伝えるべく、そして自らが楽しむべく、Try し続けてここまで来た。そんなこんなのよもやま話を、一緒に調理する間も、まるで漫談を演じるかのようにたっぷり聞かせてくれます。

岩城島のレモン懐石

岩城名物・レモンポークをスライスレモンで包んだ「豚(トン)だレモン」(手前)と地場産ひじきを湯がく際にレモンを絞った「ひじきのレモン和え」(奥)

よく聞くとかなりきわどい発言があるのですが、そんなことは「でべそおばちゃん」には関係なし! なかでも豪放磊落なメンバーの1人、西本さんにとって、“協議” や視察ばっかりで、いっこうに行動が伴わない男衆を見るのは、腹立たしくて仕方がないご様子。

「うまく行くかなんて、やってみないと分からない。やってダメなら、次はもっとうまくやる! まるでベンチャー企業の経営論ですが、こんな人こそが地域に灯りをともしていく。

論より証拠。走りながら考えて、活気を生む!

当然、そこまで言う以上、おばちゃんたちの言葉には行動がともないます。島のお祭りに料理を出品・販売するのはもちろん、島を飛び出して、農水省主催の料理コンテストにも果敢にチャレンジ。1998年には「レモン懐石」をひっさげて、「アイデアメニュー部門」で 農水省食品流通局賞 を勝ち取りました!

そんな彼女らの行動に押されるように行政も動きだし、個人宅の飲食店としての利活用を禁じていた食品衛生法を緩和し、西村さん宅での開業を許可します。なんと、「愛媛県夢提案制度」の県内適応 第1号が「でべそおばちゃんの店」なのです。

「もう、なんども役場におしかけて行って、ギャーギャー言って。周りは、またあのおばはんたちが来た…って煙たがっていたでしょうけど」と、西本さんは豪快に笑います。

岩城島「でべそおばちゃんの店」料理体験

「でべそおばちゃんの店」では「レモン懐石」を食べるだけでなく、一緒に料理して楽しむことができる体験施設。こうして島の食文化伝承にも貢献している。

「でべそおばちゃん」の名誉のためにお断りしておくと、おばちゃん達は勢いだけで走り続けたわけではない。それぞれがレモン農家でもあるメンバーが、地域の宝を島外へ発信するためには何が必要か、走りながら考えてきた結果です。

失礼を承知でいうなら、地域活性化には「若モノ、ばかモノ、よそモノ、プラス女性」の力が必要といわれますが、「でべそおばちゃん」たちはこの4役を1手に担っている。

気持ちが「若モノ」で、ときに「ばかモノ」と化して熱気を生む。島へお嫁にきた「よそモノ」だから、島の魅力がよく分かるし伝えたい。そして「女性」の技を生かしてレモン懐石を考案した。そのおかげで、橋もかかっていないこの離島の小さなお店に、開業以来2,000人を越す人が訪れ、料理と交流を楽しんでいる。

岩城島「でべそおばちゃんの店」レモン懐石

「でべそおばちゃん」たちの誇りであり、島の宝でもある「レモン懐石」

懐かしさの記憶が、しあわせのレシピになる

農家レストランの紹介なのに、料理紹介をせぬまま終わりそうです。「レモン懐石」のメニューについては、他にもたくさんのメディアで取り上げられているので、そちらを調べてみて下さい。それよりも……

なぜ、ここでの料理が、こうもおいしく感じるか? 別に技巧を凝らした、プロ料理人の料理ではない。アッと驚く仕掛けがある訳でもない。それなのに「あ〜 楽しかった」と満足して帰ることができる。「おいしかった」より「楽しかった」?

「でべそおばちゃんの店」には、食事をしに来るのだけれど、いただくのは料理だけじゃないのでしょう。「おばあちゃんち」に上がり、お座敷でおしゃべりしながら食事する。その時間が心地よいから、おいしさが増す。初めて来たはずなのに、“初めてじゃない”。

懐かしさの記憶が、おいしさのレシピのようです。
その隠し味が食事を楽しく、人をやさしくしてくれる。

そんなこと、最近感じてないなぁ… と思ったら、「青いレモンの島」へお越しください。

岩城島の海

農家レストラン「でべそおばちゃんの店」
  ーーーーーーー
【住所】愛媛県越智郡上島町岩城3057
【TEL】 0897-75-2843
【営業時間】11:00~14:00(注:完全予約制です)
【定休日】年末年始、お盆
※ 必ず事前にお電話にてご予約ください

岩城島のレモン搾り

岩城島産 100%ストレート『レモン搾り』には、搾りたてレモン6ヶ分の果汁(無添加)が詰まっています(150ml入 480円)
※ 生レモンの出荷は終了しました。次回は秋(10月目安)再開予定です

お買い物はコチラから

岩城島バナー

関連記事

  1. 神田和明さん

    【大玉村 #3】世界を股にかけた船乗りは、大玉村で農家になった。神田ファームの「命の野菜」

  2. 2019.3.11 特別広告

    【特別企画】上を向いて歩こう

  3. 石見銀山 群言堂_松場大吉・登美

    【出雲・石見銀山 #3】松場大吉・登美夫妻が10年がかりで蘇らせた「暮らす宿 他郷阿部家」は、なぜ人の心をつかむのか

  4. 飯豊町BOOK

    『飯豊町BOOK』発行しました!

  5. レモンポークと瀬戸内海

    【岩城島 #2】砂浜をかける子ブタ、レモンポークとなる!

  6. スモークハウス白南風・青木章さん

    【出雲・石見銀山 #1】滾るマグマを見て、写真家から燻製職人へ。炎と煙の使い手・青木章さん

  7. レモン鯛

    【岩城島 #3】レモンの島では鯛さえもレモン好き!?『レモン鯛の蒸し焼』に目が点

  8. いいで米ネットワーク

    【飯豊町 #2】いいで米ネットワークは、飯豊町のイイ人、イイ米、イイ出会いをつなぐ

  9. 中川はちみつ工房

    【中川村 #1】中川はちみつ工房のハチ研究家・富永朝和さんは、ハチと会話し、楽園をつくる!

  1. 南三陸町復興公園

    【3日間限定|送料無料】南三陸の美味「酒肴セット&オリーブオイ…

    2021.03.11

  2. 愛媛県上島町・岩城島の柑橘

    「今すぐ、あるだけ全部送って!」プロが全量買いつけたフルーツと…

    2021.03.02

  3. 和菓子の侘び寂び 〜「香月のイチゴ大福」は眺めたあとに舌鼓

    2021.02.28

  4. あと2週で終了「これが本物か!」と驚くワカメしゃぶしゃぶの旨さ

    2021.02.21

  5. うれしい誤算… 季節をめぐる完熟ジャムが次々に売り切れる

    2021.02.16

  1. Spain highway

    MAZDA 愛が止まらない 〜 小さき者が宿す美のフォルム

    2019.02.28

  2. 南三陸町復興公園

    【3日間限定|送料無料】南三陸の美味「酒肴セット&オリーブオイ…

    2021.03.11

  3. endoji_street

    『名古屋 円頓寺商店街の奇跡』〜 シャッター街は甦ったか?【書評】

    2018.09.04

  4. 田野畑村ワカメ

    【SHOP】北三陸から朝採り直送! 春先の美味「ワカメしゃぶしゃぶ」…

    2020.02.26

  5. 至高の奥吉野メニュー 〜 レストラン「アコルドゥ」より

    2018.04.11

「上島町 岩城島」特集

岩城島バナー

「あちの里」特集

阿智村特集

「山形県 飯豊町」特集

飯豊町BOOKバナー

「福島県 大玉村」特集

大玉村BOOK
メルマガバナー