飯豊町のなかでもここ中津川地区は、「あそこはちょっと、特別」と他地区の住民がいうほど別格視されている。
町の中心地から車で約30分。四方を奥羽山脈、吾妻山地、飯豊連峰など2000メートル級の山々に囲まれ、冬場は3メールもの雪に閉ざされる。
そんな立地だけが、中津川地区を「ちょっと、特別」にしているのではない。集落の佇まい、住民の気質、そして食。いずれも「ちょっと、特別」なのだ。
「もっといっぱい、山菜がある時季に来ないとダメよ。」
そう言われた私の目の前には、色とりどりの料理がテーブルいっぱいに並んでいる。これでもまだ、少ないというのだろうか……。 そんな疑問が、頭に浮かぶ。
ここは中津川地区で農家民宿を営む宮(みや)かよ子さんのご自宅。同じく農家民宿を営むご近所のメンバーたちも集まってくれた。
昔ながらの囲炉裏(いろり)でもてなしてくれる宿、玄関先の水車がひときわ印象的な宿、ふだんは寡黙な旦那がひとたび猟の話になると、夜な夜な語り続けてくれるマタギ(熊)猟師の宿など。
メンバー同士仲が良く、地域の連帯は強いが、各宿ごとに個性を出して競い合っている。横並びの組合ではなく、互いに切磋琢磨するのが、この「なかつがわ農家民宿組合」の特徴だ。
近年は外国人観光客の増加を受け、全国各観光地はどこも対応にせわしいが、そんな時流に先んずること10年。平成18年から「なかつがわ農家民宿組合」は8軒のメンバーで発足し、以後ずっと活動をつづけている。
人口 約300人の小さな集落で、8軒の民宿が、年間1,000人以上の旅行者を受け入れているのだから、結構スゴいことではなかろうか?
当然その中には、アジアをはじめ外国からの旅行者も多く含まれ、民宿の家族に英語や中国語に堪能な人がいるわけでもないが、「まぁ、なんとかなる」らしい。
中津川民宿の魅力は「食」にあり!雪室甘みイモ、宇津沢かぼちゃ、うす皮丸ナス!!
農家民宿でならではの楽しみの1つが、家のお母さんたちが作ってくれる家庭料理。
レストランシェフの料理とは違う。全国から選びぬかれた高級食材を使った料理でもない。
“ふつうのお母さん”たちが作る、自分の畑で採れた野菜を生かした家庭料理だ。
これが実に、ウマい!!
一見ただのジャガイモ煮物と思いきや、「雪室甘みイモ」といって雪室のなかで3ヶ月以上も寝かせ、糖度が8度以上にもなった優しい甘さのジャガイモを使っている。
サッと油で揚げて、甘辛く仕上げる。ホクホクというより、ネットリといった方がよく、小ぶりなので次々に手が出てしまう。抗えない。
すぐ隣りにはカボチャがあって、これはふつうのカボチャ煮付けでしょう… と思いきや、外皮が緑ではなく黄色い。
この地域以外ではうまく育たないといわれる「宇津沢かぼちゃ」だ。
種をまけば他所でも実をつけるが、宇津沢かぼちゃならではのおいしさが出ないらしい。だから結局、他所では育てるのを止めてしまい、この地にしかない希少野菜になる。
黄色の皮はうすく、柔らかで、実は雪室甘みイモ同様、ホクホクというよりネットリ系。煮物にはもちろん、スイーツにしても美味しそうだ。
ピンポン玉のように小さく、丸いナスは「うす皮丸ナス」。これもこの地ならではの伝統野菜で、透明なビンの中で浅漬けにされていて、キラキラと照り輝くブルーの色合いが美しい。
噛むとパリッと外皮がはじけ、なかにしみ込んだ旨さがジュッと口に広がる。これは “パリッパリッ野菜” とでも命名したいぐらい、他にない食感であり、おいしさ。食べるのが楽しくなる。
他にもワラビ、アカコゴミなどの山菜や、クルミと落花生をうるち米に練りこんだ「のりもち」というおやつまで。
これらが 「ほぼ100%飯豊町産」 というのだから恐れいる。さらにはそのほとんどが、自分たちの畑や裏山で採れたものというのだ。
ものすごく贅沢で、まさにご馳走ではないか。
「甘みイモ」から「どぶろく」「雪室コーヒー」まで。真夏の雪室に大人のテンションも上がる!
「雪室甘みイモ」を貯蔵していた「雪室」についても、少し触れたい。
大豪雪地帯であるこの地区は、もともと冬場をしのぐために保存食文化が発達し、冷蔵庫など使わずとも雪室のなかで食材を保存する知恵が育まれた。
それを現代に蘇らせたのが、飯豊町の雪室貯蔵施設だ。
重厚な2重扉をあけると、そこは一面銀世界。真夏だというのに、中は常に3℃前後、湿度90%ほどに保たれている。
保冷のための電力は一切使わず、全て雪の冷気によってのみ低温が保たれる。豪雪のハンデを克服し、さらに利活用した自然エネルギー低温貯蔵施設なのだ。(庫内作業用の灯りとして、電球は灯されている)
町民は希望すれば、ここに食材等を預け入れることができ、「雪室甘みイモ」となるジャガイモの他、お米、日本酒、ワイン、どぶろく、そして時期によっては、リンゴやラ・フランスなどが保管される。
ユニークなところでは、なんとコーヒー豆(生豆)まで貯蔵され、『雪室珈琲』として商品化もされている!(後日当サイトでも紹介予定)
不思議なもので、子どもは雪を見ると喜び遊ぶが、真夏にこれほどの大雪を見ると、なぜか大人までテンションが上がってしまう。
案内してくれた雪室施設管理組合長の伊藤清一さんは、とても実直そうな方で、丁寧に施設の説明をしてくださったが、雪室のなかに入るとこの通り(写真上)笑顔がはじけるのです!?
なお、この施設は元々中学校があった場所に建てられており、廃校になった校舎跡地をうまく利用している。その名残の校門跡も残っていた。
飯豊町にいらっしゃい!
「なかつがわ農家民宿組合」の皆さん:(左から)渡部智子さん、五十嵐京子さん、五十嵐あいさん、中村春美さん、宮かよ子さん
「なかつがわ農家民宿組合」の各民宿では、お客さんがいらした時にそれぞれのご要望に応じて参加できる、体験プログラムも用意している。
そば打ち体験や菅笠づくり、渓流釣りや山菜採りなど。
特に子ども連れの場合、こうした体験は後々まで記憶に残るので、とても貴重なものだろう。
旅をおえて思うのは、民泊の良さって、つまるところ「人」の魅力に尽きるのではないかなぁ… ということ。
ひと昔前まで、冠婚葬祭で地域の人が集まるのは当たり前だった。今は地域住民どころか、家族であっても、皆が顔を合わせて食事することがなかったりする。
農家民宿で大勢の人と食卓を囲み、話し、食べていると、他人の家でありながら「そういえば、ウチは…」とだんだん記憶と錯覚が入り混じってくる。
ちょっと人に優しくなれる。
そうありたい… と思えてくる。
「食」とは「人」が「良」くなると書くが、飯豊町 中津川地区の「食」は、文字通り人の心に届く優しさと美味しさがある。
「なかつがわ農家民宿組合」へのお問合せはコチラ
↓ ↓ ↓
一般社団法人 飯豊町観光協会(JR羽前椿駅舎内)
ーーーーーーー
【住所】山形県西置賜郡飯豊町大字椿1974-2
【TEL】0238―86―2411
【営業】8:30~18:00
【定休日】土日祝日