あちの里

「そうだ、葉っぱを売ろう!」(※1)ならぬ、「そうだ、星を売ろう!」で一躍名を馳せた村がある。長野県・阿智村だ。

南アルプスなどの山々に四方を囲まれた人口 約6,500人の小さな村には、全国屈指の「美人の湯」(強アルカリの湯)として名高い 昼神温泉 や、5,000本もの山桃が咲きほこる 花桃街道 などがあり、中京圏を主とする観光客をひきつけてきた。

しかしそれも、スキーリゾートがブームになった2000年を境に減少に転じ、観光客のみならず人口も右肩下がりを続けるようになる。その傾向は平成18年に「日本一星空がきれいな村」に認定(環境省)されても大きくは変わらず、一時は諦めムードが漂いもした。

危機感が募り、議論は紛糾するも足並みは揃わず、いよいよ… というとき、「ヨソモノ、ワカモノ、バカモノ」の巡り合わせと、なによりも 地元有志の圧倒的な「本気!」 が重なりあうことで、事態はおもわぬ展開を迎える……。

その顛末は『そうだ星を売ろう!』(KADOKAWA)に詳しいのでここでは省略するが、そんな喧騒から離れてひっそりと、でも黙々と、自らができることをやる… と足もとの灯りをともし続けた人がいる。

『あちの里』で地元食材を生かした郷土料理を受け継ぎつつ、新たな商品開発に挑んだ母ちゃんたちだ。この村には 1年365日、毎日朝市がたつほど活発な郷土文化が根づいている。そんな小さな里の食文化とそこで働く人々を、ぜひご紹介したい。

※1 「そうだ葉っぱを売ろう」とは、徳島県上勝町で広まった、山の落ち葉を料理のツマとして販売するビジネス。落ち葉が売り物になると分かり、初めはバカにしていた90才をこす年配者からも年収1000万円超の人が出て話題に。

“ 村の誇りは、つくるもの。
道端に落ちていたりしない。

だから、親戚や友人に自信をもって贈れるものしか作らない。”

阿智の里

素朴なお漬物がしみじみとおいしい。(中央左から)赤大根の甘酢漬、らっきょうの甘酢漬、しまうり粕漬け、小梅干

「やっぱりね、この村の基盤は農業なんです。農業がなくなったら、我々はない。その気持ちを持ち続けています。ただし、これまで通りでは未来はないんです。それでいいなら、どこも苦労はしてないでしょう。農家の人たちの意識改革が必要でした。」

そう話してくれたのは、有限会社 あちの里 代表取締役の河合政好さんだ。

「我々は、この村の食材や食文化には価値があると思っている。大切にしたい。でも、いまは何でもあるご時世です。よその人にしてみれば、別にこの村のものである必要はないんです。

だからこそ、私ら自身が、自分のつくるものを評価できなかったらダメでしょう。自分の想いをのせて、どう伝えていくか?

我々の世界では、いかに知ってもらい、つながり(ご縁)を広げていくかなんですから。」

“ 足もとにあるものを磨く。
背伸びは必要だけど、無いものねだりはしない。”

阿智の里

「あちの里」の人気商品『ヘルシートマトソース』には、玉ねぎ、しめじ、ニンニク、高野豆腐など野菜がたっぷり!

かくいう「あちの里」も、最初から順風満帆だったわけではない。
むしろ苦労の連続だ。

風向きが変わったのは、代表に河合社長が就任し、経営の舵取りをはじめてから。

「それまでは、母ちゃんたちが趣味で料理をつくっているようなものでした。でも、それでは事業として維持できない。1年中仕事がある。ちゃんと賃金が払える。業者払いもできる。それが大事でした。

だからあえて、売上・利益への意識を高めるようにしました。結果として、事業を継続できる。仲間が増える。

人に喜ばれ、自分も喜べる。

お金のためにやっているんじゃない、という声もあるでしょうが、意識を変えるにはそうする必要があったのです。趣味でやれればいいのか、将来も継続できる事業にしたいか?

最初にそこをハッキリさせる必要がありました。

河合社長の目は、村で野菜をつくる農家、工房で料理をつくる社員たちの未来を見据えている。「この村で暮らし、この会社で働くことになった以上、幸せになってもらわないと困る。」そう願っているのだ。

“ 母ちゃん、3人からのスタート。
コツコツつみ上げ、年商1億円へ。

あえて稼ぐを意識して、継続する。”

いろんな苦労がありつつも、今ようやく「あちの里」は従業員も増え、売上も一定規模を確保できるまでになった。年配者が中心だった創業当初から、あらたに若い社員たちも加わり郷土の食文化・知恵が受け継がれてもいる。

そんな社員の方たちに「村外に住む自分の友だちや親戚に、ぜひ贈りたいと思える品はありますか?」と聞くと、みな嬉々として「ワタシのお気に入り!」を教えてくれた。

自分たちがつくる商品を楽しそうに、そして誇らしく話す姿は、ただそれだけで見ているこちらも微笑ませる。

“ 身近な幸せに、気づくこと。
幸せって、つかむとか築くより、まず気づくものかも…

自分だけの満足なんて、つまらない。”

幸せは、伝播する。そう気づかせてくれるから
「あちの里」から幸せな気持ちの おすそわけ、始めます。