「やってみっぺ」で地域をつくる!大玉村の住民出資「村づくり株式会社」という挑戦

なだらかに広がる安達太良(あだたら)山の麓に在る、福島県大玉村。村からは秀麗な山の御陵を仰ぎ見ることができ、山の上の青空が見る人の心をつかむ。

“ 智恵子は東京に空がないといふ。
ほんとの空が見たいといふ。
智恵子は遠くを見ながらいふ。
阿多多羅山の上に
毎日出てゐる青い空が
智恵子のほんとの空だといふ。”

高村光太郎・著 『智恵子抄 〜 樹下の二人』より

そんな美しい山と空をもつ大玉村が、今、新たな挑戦に踏みだした。村の発展のため、住民自身がお金を出し合い「村づくり株式会社」を設立したのだ。

「美しい村」を次代に伝えるのが「日本で最も美しい村」のミッションなら、村の発展は自らつくる、というのが大玉村民の決意だ。住民出資 株式会社設立に当たって、村民説明会を行ったら一口3万円の出資枠350株がアッという間に完売した。

村の未来を人任せ、役場任せにしない。自分ごととして、美しさと快適さ(経済的活力)両方を求めていく。そんな強い意思をもった、大玉村の取組を追う。

「すごいプレッシャーですよ。でも追い風も吹いている。」 村づくり会社をリードする民間出身社長&店長ツートップ

ハコモノ行政と俗にいわれることがあるように、ハコ(施設)をつくること自体は難しいことではない。予算さえ確保できれば、物理的には日本全国どこにでも会社やお店を建てることはできる。

しかしハコモノと聞いてあまり良いイメージを抱かぬ人が多いように、その施設が本当に期待されていた通りの結果・効果を生めるかというと、話はまるで違ってくる。良い結果でないことの方が、むしろ多い。問題はハコ(ハード)ではなく、中身(ソフト)なのだ。

大玉村が新たに「村づくり株式会社」を設立するに当り、押山利一村長はその舵取りを委ねるべく、地元精肉屋経営者で商工会会長だった鈴木誠一さんと隣町でスーパーに勤務していた矢吹吉信さん(44)をリクルートした。民の力を借りねば、経営は成り立たないことを良く理解していたのだ。

鈴木社長&矢吹店長ツートップのもと、前年比売上150%の快進撃が始まる。

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まさかの“屋根より低い鯉のぼり”。逆転の発想で仲間を増やす。矢吹店長の巻きこみ術

ゴールデンウィーク前、直売所に隣接する新店舗『お食事処 たまちゃん』開店を控え、さぞ忙しいんだろうな… と思いつつ矢吹店長を訪ねていくと、真っ先に目に入ったのが駐車場脇の広場に横たわる「鯉(こい)のぼり」。

“♪ 屋根よ〜り た〜か〜い、こいのぼり ♪” のはずが、ここの鯉たちはグッタリと芝生の上に横たわり、屋根どころか人の背丈より低い。お世辞にもキレイとはいえない。大丈夫か、この店は… 正直、そう思ったのだが……。

「あの低さが、実はポイントなんです。」 店長にお会いして、先の件を問うてみると、まさかの答えが返ってきた。

小さな子どもでも触ることができる。風が吹いて鯉たちが泳ぎだすと、子どもたちが追いかける。「鯉と子どもが一緒に映るから、写真(インスタ)映えもバッチリです。屋根より高いと、こうはいきません」と矢吹店長。

もともとは全てを高く吊るす器具やお金が無かったための苦肉の策だった。しかし、“もしかすると…”の狙いがズバリ当たった。テレビや新聞をはじめ沢山のメディアに取り上げられ、期せずして最高の宣伝広告になった。

「なにも無いのが、武器になるんですね。」そういって目を輝かせる矢吹店長にとって、ここ大玉村は宝の山以外の何ものでもない。

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世界を股にかけた船乗りは、大玉村で農家になった。首都圏シェフからも指名買いが来る、神田さん親子の「命の野菜」

福島の特産品というと、何を思い浮かべるだろう。桃、リンゴ、梨、トマト、きゅうり、アスパラ、米……? 正直どれも「コレ!」というインパクトがないのではないだろうか…(福島の人には怒られてしまうが)。

実際、先に挙げた農産物はいずれも福島県が全国トップクラスの生産量を誇る自慢の品々だ。それでも、リンゴー青森、米ー新潟、のようなひと言で誰もが分かるほど、広く知れ渡っているわけではない。こと農作物に関して、福島は「なんでも出来ちゃって困る(印象が薄い)」県なのだ。

大玉村で何を紹介しようか考えたとき、この問題にぶつかった。地元の人に聞くと、「イチゴ、アスパラ、米、たまねぎ、トマト… いろいろありますよ」と返ってくる。これが困る。「なんでもあるは、なんにも(伝わら)ない」のだ。

率直にそんな意見をぶつけ、「むしろ量は少なくても、この人しか作れない!みたいなモノはありますか?」と訊ねると、一瞬間をおいてこんな答えが返ってきた。

「います、います!ちょうどいい人が!! ヘンなものばっかり作って、プロ料理人が “この人の野菜は「力」がある”といって買って帰る人が!」

そう紹介されたのが、神田和明さん・大さん親子だ。

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「民話で育む村の力」 森の民話茶屋・後藤みづほさんの民話と手料理は、心の鼓動を伝えるライブ

「民話」といっても、あまり具体的なイメージが湧かない人が多いと思う。むしろ「昔話」といった方が、なじみ深い。「昔々あるところに…」というおなじみのフレーズを知らぬ人は少ない。

民話にはそんな昔話も含まれるが、そうした定形(「…したとさ。めでたし、めでたし」で終わる等)にはまらずに、もっと自由に、人の口を通して受け継がれてきた話の総体だ。口伝・口承であるから、自ずと、人から人へ直接伝えられる範囲(地域)限定となる。よく知られるのは、岩手県遠野町に伝わる民話を柳田国男が“収集”した「遠野物語」だろう。

そんな「地域の物語・民話」を大切に受け継いでいこうと活動されているのが、大玉村『森の民話茶屋』を営む後藤みづほさんとその仲間たちだ。

「今日は、ありったけの野菜を入れた味噌汁もおつけしましょう。」そういって、後藤さんはまず、地元食材満載の手料理で私たちを迎え入れてくれた。

イカ人参、三五八(さごはち)漬、くきたち、新玉ねぎの酢漬け、ウリの奈良漬、大根もち…… どれもご自身、または地元の仲間たちが作った食材をメインにした郷土料理だ。

食事をいただいた後に、希望があれば民話を聞かせてくださるのだが、目の前で後藤さんがつむぐ民話の世界は、“子ども向けの昔話”という先入観を覆す「ライブ」だった。

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生産者が安心して農業に専念できるように… 直売所で1日200束のアスパラを売る仕掛けとは?

元々、父の代から米農家だった鈴木綱樹(つなき)さん宅でアスパラ栽培をスタートしたのは、綱樹さんが就農した6年前から。なぜ、アスパラだったのか?

「もともと米を作っていて、今後も米づくりは続けていきますが、なにか新しいものにもチャレンジしたいと思い、いろいろ調べていました。そのなかで、米との複合経営にはアスパラはちょうど良いと聞いて」と綱樹さん。

「いざやってみると、これはこれで大変なんですけどね」と笑う。ちょうどそのとき、綱樹さんのケータイが鳴った。直売所からの自動メールだ。毎日2回、昼と夕方、自分が出荷した商品がどれほど売れているのか(残っているのか)知らせるメールが届く。これを見て、各生産者は、追加を持っていくか、明日の出荷量をどうするか、判断し調整する。

「これはすごく助かっていますよ」と綱樹さん。いいモノづくり(品質向上)は生産者の本分だが、今は外部環境の変化が激しく、あらゆる情報が錯綜する。あれをしろ、これをしろ、これからの時代は… 時代の先端は… 聞いてるだけで不安が増幅し、何が正しいか分からなくなる。

そんな生産者の不安を軽減し、生産者が安心して農業に専念できるような体制をつくることも、「おおたま村づくり株式会社」は期待されている。

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