長野県阿智村の「あちの里」さんのスタッフは、皆、自分たちのつくる料理がよほど好きなのだろう。「親戚や知人に、ぜひ贈りたいと思う品はどれですか?」と訊ねると、嬉々として「ワタシのお気に入り!」を教えてくれる。
その中にとても印象的な言葉をいった人がいる。『みょうがの甘酢漬』と『カリカリ梅のブランデー漬』をあげた金子真理子さんだ。金子さんによると、
「みょうがは阿智の特産品で、ピンク色がキレイでしょ。若梅はカリカリ感とキレイな翡翠(ひすい)色、両方を出すのが難しいんです。」
ただ “おいしい” じゃなくて、どちらも「キレイでしょ!」といえるから、誇らしくて「好き」なんです。

ごはんの脇役・お漬物だが、あざやかなピンクが映えることで料理全体がグッと華やかになる。
おいしさよりも、見栄えが大事というのではない。おいしいし、原料にも十分こだわっているけど、そのうえさらに「キレイだから」好きなのだ。
モノがあふれるご時世に、「おいしい」ものはどこにでもある。スーパーで「おいしくない」ものを見つける方が、むしろ難しいぐらいだ。
だからこそ、ただ「おいしいです」でも、「こだわってます」でもなく、「キレイでしょ」。これってじつは、とても大切じゃないだろうか?

「キレイでしょ。」
キレイなものを見ていると、気分がいいです。
清々しい。
成分がどう、糖度がどう、とか。最上級の原料のみをつかっています、とか。それらがどうでもいいわけではないけど、あまり神経質になりすぎると、疲れちゃいますね。つくり手も買い手も。
それよりは信頼できる相手から、「これ、よかったら食べてみて」といわれたものが、本当においしかったり、安心して食べられたりする方が、ずっとありがたく感じます。

こちらは、金子さんの同僚・山田さん。
お気に入りは、『赤大根の甘酢漬』。
「さっぱりとした味付けが好き」なんだそうで。
ならばコメントも多くは語らず。でもその裏には、おいしさと美しさを出すための苦労が、たくさんあるんです。
鮮烈な真っ赤な色は、着色料を用いず、郷土野菜・赤大根ならではの自然の力を生かしたもの。味付けも人工甘味料に頼りません。
村外に暮らす親戚や知人へはもちろん、自分の子どもや孫たちにも安心して食べさせられるものを慈しみながらつくっています。

1品ずつを大切にしているから、ふだんはご飯の脇役になるお漬物も、こうして食卓の中心に置いたって見劣りしません。(画像上:中央の角皿左から『赤大根の甘酢漬』『らっきょうの甘酢漬』『しまうりの粕漬』。右隣り小鉢は『小梅漬』)
こうして素朴だけれど、滋味あふれるものを大切にするから、郷土への愛着も自信もおのずと湧いてくるのでしょう。「あちの里」の人と話していると気持ちがいいのは、そのへんにも理由があると感じます。

そのうえ鶏肉をソテーして 『具だくさんトマトソース』 をかければ、このとおり簡単に華やかな食卓がととのいます。(『具だくさんトマトソース』については、コチラを参照)
「あちの里」の河合社長によると、
“ 郷土料理をそのまんま出すのでは、よその人を引きつける力、実際にお金を払ってもらえるだけの商品にならない。郷土料理を受け継ぎつつ、新たな商品を生むんです。”
その強烈な自負が、スタッフにも共有され、ていねいな料理をつくるからこそ「キレイでしょ!」という自信につながるのでしょう。そういう故郷(ふるさと)が日本中にたくさんあると、旅をするのがもっと愉しくなりますね。
「あちの里」の旅、つづきます。