山形県 飯豊町 ーー「日本で最も美しい村」

そう名のるに相応しい、山間(やまあい)の町だ。なかでもここ、中津川地区は、町内の他地区に住む人からも「あそこはちょっと、特別」と別格視される。

同じ飯豊(いいで)町内とはいえ、町の中心地からは車で1時間近くかかる。四方を奥羽山脈、吾妻山地、飯豊連峰など2000メートル級の山々に囲まれ、冬場は3メールもの豪雪に閉ざされる。

しかし、そんな険しい自然に囲まれているからこそ、豊富な雪解け水に育まれた米や野菜など、その恵みを享受する暮らしの知恵が培われた。

飯豊町_民泊

【飯豊町 #1】 民泊の先駆け。なかつがわ農家民宿組合は十人十色。助け合いながら個性を磨く。

「もっといっぱい、山菜がある時季に来ないとダメよ。」

そう言われた私の眼の前には、色とりどりの料理がテーブルいっぱいに並んでいる。これでもまだ、少ないというのだろうか……。 そんな疑問が、頭に浮かぶ。

ここは中津川地区で農家民宿を営む宮(みや)かよ子さんのご自宅。
同じく農家民泊を営むご近所のメンバーたちも集まってくれた。

昔ながらの囲炉裏(いろり)でもてなしてくれる宿、玄関先の水車がひときわ印象的な宿、ふだんは寡黙な旦那がひとたび猟の話になると、夜な夜な語り続けてくれるマタギ(熊)猟師の宿などなど。

中津川_郷土料理

個性豊かな民宿が、この集落には8軒ある。宮さん家族が営む「農家民宿 あえる村」は、川魚(ヤマメ)料理が自慢だ。

それぞれのアピールポイントは違えど、どこにも共通するのが、この地区ならではの食材をふんだんに使った郷土料理を堪能させてくれること。

この日は、宇津沢カボチャ、うす皮丸ナス、雪室ジャガイモ、のりもち、などなど。

いずれも “初体験” だが、そのお味ときたら…

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いいで米ネットワーク

【飯豊町 #2】「いいで米ネットワーク」は、飯豊町のイイ人、イイ米、イイデ会いをつなぐ

「飯」(メシ)が「豊」かな町なのだから、飯豊(いいで)町のお米がおいしくないわけがない。

たわわに実る稲穂が、黄金色にかわり、もう間もなく収穫のときを迎えようとしている。

史上最大といわれた超大型台風が過ぎ去ったあと、田んぼの稲は一部横倒しになり凹んでいるが、幸いここでは大きな被害もなく、稲が風にそよいでいる。

「自分の育てたお米を誰に食べていただくか? それを自分たちで選ぶ道を選択しました。」

飯豊町_米ネット

「いいで米ネットワーク」の新野真太郎さん(37)は、サラリとそう言うが、米農家にとってそれはもの凄く大きな決断だ。

つくったら、あとは全部ひき受けてくれる農協さんへの出荷を止め、すべてのお米を自分で直接販売する。

従来の農協さんへ出荷するやり方は楽だし、セイフティ(安全)だ。でも、そうするとせっかくの自分のお米が大勢の人のお米と混ざり、「山形県産」としてしか伝わらない。

自らと自らが育てたお米をもっと良く知ってもらい、同時に、お客様のことをもっと良く理解できるやり方は? 行き着いたのが、リスクは自分で引きうけて、お客様に直接販売する直売システム。

4人の若手生産者が集い、「いいで米ネットワーク」が立ち上がった。

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飯豊町_米沢牛

【飯豊町 #3】「米沢牛」というトップブランドを引きうける覚悟

地域活性化や地場産業の強化を語るとき、ほぼ誰しもが口を揃えて「ブランド化」を目指すという。

ひらたくいえば、自社商品やサービスを少しでも高く売れるようにすることだ。

差別化や高付加価値化などともいわれるが、そのために何を、どうするかまで、現場レベルで落としこめている地域は少ない。

「米沢牛」という、食に携わる人なら誰しもが知るトップブランドを育てる人たちは、長い年月をかけ、苦心してようやく、自らに課す厳しい基準を定めるに至った。

米沢牛

「米沢牛」とは、
1. 置賜3市5町内の登録事業者が育てた牛
2. 生後月齢32ヶ月以上の黒毛和種の未経産雌牛
3. 3等級以上の外観・肉質・脂質に優れた枝肉

これら全ての条件をクリアーせねば、名のれない。

「ブランド化」は、東京の業者や消費者がしてくれるものでなく、まず自分が高い基準を自らに課すことから始まっている。

それを承知で「オレがやる!」と肚をくくった人によって、「ブランド」が保持されている。

米沢牛の実に約40%もの牛が、ここ飯豊町で育っている。

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飯豊町

【飯豊町 #4】 東北初の完全放牧酪農による、ながめやま牧場の牛乳&ヨーグルト

牛たちは、勝手気ままだ。
人の都合など知りはしない。

広大な土地に、牛たちが完全自由に放牧されているから、緑映える牧場で乳牛たちが草をはむ景色が見られる。そう思い描いていた。

唯一の気がかりが、天候。
雨がふり、泥にまみれてしまったら、牛も山もキレイじゃない。

その天気が見事なまでの晴れ模様。これで万全と思いきや……

ながめやま牧場

「今日は暑すぎて、牛たちは皆、牛舎から出てこないですね。」
ながめやま牧場・場長の松岡健さんから、そう告げられた。

ガッカリして牛舎に向かうと、入口に近いところに1頭、横たわって大きくお腹を上下させている牛がいる。

ときどき呻き声をあげていて、様子がへんだ。
よく見ると、尻尾のあたりから何か出ている。

呻いている牛のものではない。
別の牛の脚が突き出ているのだ。

まさに今、新しい命が、誕生しようとしていた。

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飯豊町_香月

【飯豊町 #5】 地元にあることが嬉しい、“いいお店” 「香月」

たしか、糸井重里さんだったと記憶しているのだが、「1軒のいいパン屋さんがあるだけで、町全体が元気になれる」。

そんなことを言っていたと思う。

パン屋さんというのは比喩で、団子屋さんでも、定食屋さんでも、もしかすると花屋さんでも良いのかもしれない。

ふらり立ちよって、なんということもない会話をして、ちょっとだけ買い物もして、元気をもらって帰っていく。

「いいお店」って、そんな感じ。

飯豊町_香月

「もし、県外で暮らす自分の息子か娘に、なにか送ってあげるとしたら、何を送りますか?」

町の人にそんな質問をしたら、一瞬の間のあとに 「香月さんのお菓子かな…」 そう返ってきた。

興味が湧いて、香月さんを訪ねていったとき浮かんだイメージが、「いいパン屋さん」の話。

店内にはカフェもあり、地元のおばちゃんやおじいちゃん、若い女性など、入れかわり立ちかわり訪れては、めいめいおしゃべりして、ケーキやお団子を食べて帰っていく。

地元にあって嬉しい、「いいお店」なのだ。

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飯豊町 Slow Village
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