たしか、糸井重里さんだったと記憶しているのだが、「1軒のいいパン屋さんがあるだけで、町全体が元気になれる」。そんなことを言っていた、と思う。
パン屋さんというのは比喩で、団子屋さんでも、定食屋さんでも、もしかすると花屋さんでも良いのかもしれない。ふらり立ちよって、なんということもない会話をして、ちょっとだけ買い物もして、元気をもらって帰っていく。
「いいお店」って、そんな感じ。
「もし、県外で暮らす自分の息子か娘に、なにか送ってあげるとしたら、何を送りますか?」
町の人にそんな質問をしたら、一瞬の間のあとにこう返ってきた。
「香月(こうげつ)さんのお菓子かな…」
興味が湧いて、菓子屋・香月さんを訪ねていったとき頭に浮かんだのが、さきほどの「いいパン屋さん〜」の話。
店内にはカフェもあって、地元のおばちゃんやおじいちゃん、若い女性客など、入れかわり立ちかわり訪れては、めいめいおしゃべりして、ケーキやお団子を食べて帰っていく。
店主の奥さんと思われる方が、女性グループのお客さんと談笑し、笑みがこぼれている。「販売者」と「消費者」という形式的な関係ではない。人として親しくおつきあいできる関係。そう伝わってくるのが心地よい。
「香月」4代目・長男の味田(みた)勝徳さん(37)に話を聞いた。
「ヘンに洋菓子をとり入れようとは思っていません。自分の担当は、和菓子ですから。」
「香月」の創業はおよそ90年前。和菓子屋としてスタートした。初代・2代目は和菓子を志し、3代目の勝一郎さん(勝徳さんの父)の代から洋菓子を始めた。
4代目の勝徳さんは、ふたたび和菓子の道に進むが、父・勝一郎さんもまだまだ現役だ。傍らには、弟の勝士(かつし)さんもいる。勝士さんが「香月の洋菓子」を継いでいく。
和と洋が揃うことで、品ぞろえも客層もグッと幅が広がり、それが「香月」の楽しさを生んでもいる。洋菓子職人(パティシエ)の父や弟と一緒なので、和と洋の合作のようなお菓子も生まれるのでは… と思い尋ねると、
「ヘンに洋菓子をとり入れようとは思っていません。自分の担当は、和菓子ですから。」
そう返ってきた。あくまで基本は忠実に、軸はブレない。勝徳さんの芯の強さを感じる。
そんな勝徳さんがつくる和菓子は、しっかりと和のスタイルに倣いつつも、現代的な感性が随所に光る。
一見、ベーシックな「どら焼き」も、中はご当地名産・だだちゃ豆を生かした「だだちゃ豆どら焼き」だったりする。
他にも、桃や柿、ハチミツや日本酒(どぶろく)にいたるまで、季節にあわせて地元食材を積極的にとり入れている。
「地域の仲間といっしょに『飯豊町ブランド』を盛り上げていきたいですね。」
自分がよって立つ足元を見つめつつ、その視線はさらに広い世界を見つめている。
香月特製 「焼きチョコまんじゅう」 がおもしろい。見かけはクッキー、でもフワフワ。名前はまんじゅう、でも軽くて香ばしい!
そんな勝徳さんの心強いパートナーであり、刺激にもなるのが、弟の勝士さんだ。3年前に東京での修行から戻って以後、父のもとでさらに洋菓子の道を探求している。
じつはお店に来る前に、ある方からこう聞かされていた。
「(山形)県南で、お菓子の香月さんを知らない人は、いないよ。」
それほど地域の人たちから愛され、支持されている。その「香月の洋菓子」を1代で築いたのが、父・勝一郎さんだ。
お父さんの話も聞こうと思ったが、「私はいいから、息子たちを…」と、笑った。この父あればこその、息子たちなのだろう。
次男・勝士さんが父とともにつくる洋菓子は幅広い。デコレーションのような生菓子はもとより、クッキーにパウンド、ドーナッツにパンまで。
ドーナッツといっても油であげる一般的なドーナッツではなく、1つずつ専用オーブンで焼く 「焼きドーナッツ」 だ。かぼちゃ、ほうれん草、小豆、いちご、ゴマ、etc… フレーバー(味)も様々で個性的。
1番シンプルな「プレーン」を頂くと、油であげていないから重くはなく、焼いているのにパサついていない。“しっとりケーキ” という感じだ。
1番印象に残ったのが、「焼きチョコまんじゅう」(焼菓子写真・上、手前)。パッと見、チョコクッキーだが、外皮がふわっと衣のようになっていてチョコレートを包んでいる。その丸み具合が、確かにまんじゅうを思わせる。
見かけもさることながら、食べたときの食感がまたおもしろい。クッキーのつもりで食べると、衣がふわっとくずれて口当たりが軽く、それでいてサクッとした食感も残っている。チョコレートは焼くことで香ばしさを増している。
「焼きチョコまんじゅう」って、和菓子・洋菓子どっちやねん!とツッコミたくなるネーミングだが、食べると「なるほどねぇ〜」と納得してしまう。洋酒がきいているので、大人向きのちょっと贅沢なスイーツといえよう。
(勝徳さんは「ヘンに洋菓子をとり入れようとは思っていません」と言っていたけど、こういう商品は「和洋菓子・香月」ならではのような…?)
「ながめやま牧場のミルクジャム」「柿のコンフィチュール」「ドライフルーツ・ナッツ入りはちみつ」、地元コラボ商品が続々!
和洋菓子の老舗という以外に、もう1つ「香月」を語るうえで忘れてはいけないのが、地元の食の魅力(こと菓子・スイーツに関して)の「情報発信拠点」になっていることだ。
【飯豊町 #4】東北初の完全放牧酪農に挑む、ながめやま牧場で紹介した「ながめやま牧場」の牛乳を煮つめてつくったミルクジャムをはじめ、地元「柿の木会」とコラボした「柿のコンフィチュール」「柿酢」「柿ようかん」など。意欲的に商品開発と「飯豊町ブランド」向上につとめている。
なかでも「これはイイ!」と思ったのが、「ドライフルーツ・ナッツ入りはちみつ」だ。飯豊産トチ(栃)のはちみつの中にドライフルーツとナッツが文字通りギッシリ入っている。
近年のヘルシー志向をうけ、「ナッツ入りはちみつ」は高級スーパーなどで見かけるようになったが、「香月のナッツはちみつ」にはアーモンド、ピーカンナッツ、カシューナッツ、マカダミアナッツの他に、いちじく(ドライフィグ)とアプリコットがゴロゴロ入っている!
かるく焼いたトーストは勿論、ヨーグルトやアイスにかけるだけで満足度がグッと上がるし、なによりナッツ・はちみつ・ドライフルーツという “体にいいもの3点セット” だ(砂糖無添加)。難をいえば、かけすぎて減りが早いことぐらいだろうか。(検証はしていないが、きっと美容にもいいに違いない!?)
お店の雰囲気、品揃え、地域とお客さまに対する姿勢、等々。なぜ「香月」に人が集まるか、分かる気がする。
「1軒のいい菓子屋さんがあるだけで、町全体が元気になれる。」
そういわれる「いいお店」へ向け、4代目兄弟は力を合わせる。
和菓子・洋菓子 香月(Kogetsu)
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【住所】山形県西置賜郡飯豊町萩生4400-5
【TEL】0238―72―3923
【営業】9:00~20:00
【定休日】年中無休