神田和明さん

【大玉村 #3】世界を股にかけた船乗りは、大玉村で農家になった。神田ファームの「命の野菜」

福島の特産品というと、何を思い浮かべるだろう。桃、リンゴ、梨、トマト、きゅうり、アスパラ、米……? 正直どれも「コレ!」というインパクトがないのではないだろうか…(福島の人には怒られてしまうが)。

実際、先に挙げた農産物はいずれも福島県が全国トップクラスの生産量を誇る自慢の品々だ。それでも、リンゴー青森、米ー新潟、のようなひと言で誰もが分かるほど、広く知れ渡っているわけではない。こと農作物に関して、福島は「なんでも出来ちゃって困る(印象が薄い)」県なのだ。

安達太良山と蕎麦畑お米とならび大玉村民 自慢の食材が、蕎麦(そば)。名水の里でもあり、村内全ての水道水に湧き水が使われている。

大玉村で何を紹介しようか考えたとき、この問題にぶつかった。地元の人に聞くと、「イチゴ、アスパラ、米、たまねぎ、トマト… いろいろありますよ」と返ってくる。これが困る。「なんでもあるは、なんにも(伝わら)ない」のだ。

率直にそんな意見をぶつけ、「むしろ量は少なくても、この人しか作れない!みたいなモノはありますか?」と訊ねると、一瞬間をおいてこんな答えが返ってきた。

「います、います!ちょうどいい人が!! ヘンなものばっかり作って、プロ料理人が “この人の野菜は「力」がある!” といって買って帰る人です」

そう紹介されたのが、神田和明さん・大さん親子だ。

海の男が一転、標高500メートルの森の住人に。極彩色の世界に惹かれて

早速、神田さんの農場「神田ファーム」へ向かう。安達太良山の方角へ車を走らせ、山道を上っていく。着いた先は、すっかり森の中といった感じで、隣家は見えない。

国道沿いの直売所がショッピングセンター脇の拓けた場所にあるので、ようやく「最も美しい村」に来ている実感がわく。

そんな森閑とした山の中に、コテージのような神田さんの自宅はある。いわゆる “農家らしい農家” とは、明らかに佇まいが違う。それもそのはず、神田さんは熊本県 天草出身で、元・某大手水産加工品メーカーに勤め、世界の海をまたにかけた船乗りだ。

退職を機に農業をやる土地を探した末、奥さんの実家・大玉村に行き着いた。海の男が一転、標高500m の森の人となる。

「いろんな野菜が採れるのはいいけど、やっぱり新鮮な魚は恋しくなりますね」という。一抹の未練はあるようだ。

大玉村、神田さん

しかし、荒波に揉まれ、鍛えられた神田さんのパワーが発揮されるのはここから。せっかく残りの人生をかけてやるのだ、「農薬や化学肥料の味ではなく、自然の野菜を味わいたい」と有機・無農薬農法に挑む。

ベテラン農家でも有機・無農薬農法は、容易でない。それを海の男がやろうとしている。なぜか?

「陸よりも海、船上で過ごす時間が長い生活をしていましたから。見渡すかぎり灰色の世界ですよ。もっと彩りある暮らしの方が、いいじゃないですか。」

予想外の答えが返ってきた。

神田さんがいたのは主に、北米や北大西洋、ベーリング海など。海と聞くと、燦々とふり注ぐ太陽、透き通る碧い海をイメージするかもしれないが、神田さんの実体験ではむしろ、深く、暗く、冷たい、灰色の世界だ。

故郷・天草のように、海も陸も鮮やかな色彩にあふれた景色とは違う。だからこそ余計、色とりどりの世界が恋しくなるのかもしれない。

そんな感性が、神田さんの育てる野菜に現れる。ビビッド(鮮明)な色が、食べる人の目に飛びこんでくる。

糖度15度超え!「スーパーさやえんどう」に太古の野菜「ツタンカーメン」。ここは野菜の実験場!?

自然農法を実践すると、余計な面倒も背負いこむことになる。まずは虫。

農薬をかければ簡単だが、天敵(害虫の天敵となる益虫)やコンパニオン・プランツ(互いに生長を助けたり、病害虫を抑える役目をはたす共生植物を混植する)などで追い払う。

販路も自ら拓かねばならない。農協の指示通りやれば、出荷まで引き受けてくれるが、神田さんのように “ヘンな野菜” は作れなくなる。自然農法だと規格外品も出る。

そんなとき「あだたらの里 直売所」は頼りになる。規格外でも置いてもらえるし(選ぶのは、お客さんだ!)、周りと違う野菜も快く販売してくれる。むしろ他所には無いもの、と喜んでくれる。

そうする中で、土壌の力が強まり、神田さんの経験値も上がる。よそではあり得ない野菜が採れはじめた。最近では、糖度15度を超す「サヤエンドウ」だ。メロンやスイカより甘い!

生命力があふれる故か、サイズが不揃いで、一見、見映えが悪くなっても、野菜本来の旨さがあるから、プロ料理人の目に留まる。「神田さんの野菜を」と、指名買いがくるようになった。

「手探りで始めて、1年目わずかながらも売上になった。2年目、倍になり、3年目さらに倍。このまま倍々でいけば… と思いましたが、そうは問屋が卸さない。難しいもんですね。」そういいながらも、とても幸せそうだ。

神田さん親子

神田さんには、とても素敵な奥さんがいる。上品で、さりげなく周囲に気配りをなさっているのが良く分かる。そして、今や頼もしい仕事のパートナーになった息子の大(だい)さん。「アイツは、中身がアメリカ人なんですよ」とシアトル生まれの倅のことを話す眼差しは、厳しくも嬉しそうだ。

良い夫婦、良い家族だなぁ… と森の中で話しをしていると、時を忘れる。

シェフたちは「神田さんの野菜は、力がある」といって買って帰るらしい。でも、料理人でなくとも、ここにお邪魔すると、とても楽しい時間を過ごせる。心の洗濯がされるようで、元気になれる。

美しい村の、美しい家族。そんな人と出会うのは、嬉しい。

神田さんの野菜は、こちらでお買い求めください
  ↓   ↓   ↓
「あだたらの里 直売所」
  ーーーーーーー
【住所】福島県安達郡大玉村大山字新田10-1
【TEL】 0243-48-2317
【営業】8:30~18:00(10月~3月は 17:00閉店)
【定休日】年末年始のみ

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