大玉村の住民と村外の人とをつなぐゲートウェイ(玄関口)を築くべく船出した「大玉村づくり株式会社」。村の多くの人が、「自分ごと」「村の誇り」と感じ、参加できるように、その拠点「あだたらの里 直売所」はあえて「住民出資による株式会社」化という運営形体をとった。はたして村民は、支持してくれるだろうか……?
不安と期待を抱えての出発だったが、関係者の心配をよそに、村民からの出資受付を開始すると、1口3万円の株、計350株はアッという間に完売。資金は集まった。村民の期待が大きいのも分かった。だが本当に、この挑戦はうまくいくのか……? あらたな不安と課題が現れる。どうやってそれらを乗り越えていくか? 現在進行系の「大玉村づくり株式会社」の挑戦に迫る。
これまでの経緯、【大玉村 #1】村づくり株式会社をリードする民間出身 社長&店長ツートップ(前編)は、コチラ。
ゴールデンウィーク前、直売所に隣接する新店舗『お食事処 たまちゃん』開店を控え、さぞ忙しいんだろうな… と思いつつ「あだたらの里 直売所」の矢吹吉信店長を訪ねていくと、真っ先に目に入ったのが駐車場脇の広場に横たわる「こいのぼり」。
“♪ 屋根よ〜り た〜か〜い、こいのぼり♪” のはずが、ここの鯉たちはグッタリと芝生の上に横たわり、屋根どころか人の背丈より低い。お世辞にもキレイとはいえない。大丈夫か、この店は… 正直、そう思ったのだが……。
「あの低さが、実はポイントなんです。」 店長にお会いして問うてみると、まさかの答えが返ってきた。
小さな子どもでも触ることができる。風が吹いて鯉たちが泳ぎだすと、子どもたちが追いかける。「鯉と子どもが一緒に映るから、写真(インスタ)映えもバッチリです。屋根より高いと、こうはいきません」と矢吹店長。
もともとは全てを高く吊るす器具やお金が無かったための苦肉の策だった。しかし、“もしかすると…” の狙いがズバリ当たった。テレビや新聞をはじめ沢山のメディアに取り上げられ、期せずして最高の宣伝広告になった。
「なにも無いのが、武器になるんですね。」そういって目を輝かせる矢吹店長にとって、ここ大玉村は宝の山以外の何ものでもない。
商品をただ並べれば良いのではない。その価値を分かってもらうこと、良さを伝えること。モノ売りではなく、村の物語を語ることも、直売所の大事な仕事。
なにげないひと言に大事なポイントが秘められている。
● 「なにも無い」からこそ、知恵を絞る「逆転の発想」
●「宝の山」は実は、足元に眠っている。そのことに気づくこと
言われてみれば「なんだ、そんなこと」と思われるかもしれない。が、そこを常に意識して、柔軟かつスピーディーに日々対処しているか否かで、状況はまるで変わる。矢吹店長就任後、直売所の売上が右肩上がりで急上昇したことが如実に物語っている。
外部環境が変わったわけではない。生産者も店舗運営スタッフも同じ。なのに、売上はグングン伸びていく。地道な改善のつみ重ね。魔法など無い。「宝」の存在に気づき、磨き、輝かせる。
ただの“石ころ”と思っていた足元の石が、実は宝の原石だと気づき、磨いてこそ初めて、宝石は輝く。村に自信が、明かりが、灯りはじめた。
鮮度バツグンの採れたて野菜の他、地元事業者・女性グループによる惣菜や漬物等、加工品も充実
今でこそ「大玉村はディズニーランドよりおもしろい!」とまで言う矢吹店長だが、もともとはあまり自信をもって、村のことを好きとは言えなかったらしい。「私は、大玉村が嫌いでした。」地元中学校で講演を頼まれたとき、そんな言葉から話し始めた。
高校進学とともに隣町へ通うようになって、友達から「家どこ?」と聞かれるのが嫌だった。「大玉村」と答えるのが恥ずかしかったからだ。はやく福島市か郡山市へ出て行きたかった。その思い通りに、郡山市のスーパーに就職。店舗の品出し、陳列、掃除、接客… 現場業務から叩き上げ、複数店舗をみるエリア全体のマネージメントを任されるまでになった。仕事は楽しく、充実していた。
それなのに何故、大玉村に戻ることを決めたのか?
農業大国・福島らしく品揃えは豊富。定番野菜はもちろん、よそでは見かけぬユニークな掘出物との出会いも直売所での楽しみの1つ
「結婚して、妻の仕事の都合で福島市で住むようになりました。毎日、福島から郡山までの車通勤。途中、大玉村を通り過ぎます。安達太良山が美しくて、やっぱりキレイだなぁ… とあらためて思いました。」
「ときどき村の行事などで実家に帰ると、ご近所さんや昔の友だちなどとの交流も、ありがたいと感じるようになりました。やはり同じ福島でも、大きな街の福島市や郡山では、人付き合いも大玉村のようにはいきませんし。」
あれほど嫌いだった故郷が、恋しくなり、離れて暮らしたことで、逆に良さが分かるようになった。だからこそ、この村の良さを伝えたいし、知ってもらいたい……。 かつての自分がそうだったように、気づかぬ人、知らない事がまだまだ多いから。
「あだたらたの里 直売所」は、ただの「販売店」ではない。地元の住民が行き交う「交流所」でもある。人と人との“距離の近さ”が、お店の魅力を生み出している。外では野菜を出荷しに来た生産者たちが、コーヒーを飲みながら談笑していた。
その思いが膨らんできた最中、新たに設立される村づくり株式会社の店長をやってみないかとの打診が来た。「自分にやらせて下さい。」 渡りに船だった。
ちょっと意地悪な質問をしてみた。「いくら店長にやる気とスキルがあっても、周りの人がそっぽを向いたら、事業は成功しません。特にベテラン社員やパートさんなどは、従来のやり方を変えられると、反発したりすることもある。そんなことは起きませんでしたか?」
「幸い、それは無かったですね」と、矢吹店長。「やってみっぺ、ガンバっペ」の気持ち、そこが大玉村の良さでもあるという。勿論、店長自身の人柄が、周りの人の気持ちを「ガンバっぺ」に向かわせたのは間違いないだろう。
「いくら村長が村民出資 株式会社をやりたいといっても、矢吹店長がいなかったら、出来なかったと思いますよ。」 鈴木社長の言葉が、そのことを裏づける。
画像提供:大玉村づくり株式会社
新たにオープンした食堂も連日賑わっている。大玉村自慢の水、米、そば、モチが、訪れる人を楽しませる。店内にあるそば打ち所では、村民が持ち回りでそば打ちの実演をして好評だ (註:実演は週末のみ)。ときには村民に混ざって、押山村長自身がそば打ちをしていたりする。まさに村民が行き交う「交流拠点」であり、村の魅力のショールーム、「ゲートウェイ」(玄関口)だ。
隣りの敷地では、新しい建物の建設工事が進んでいた。聞けば、洋菓子をつくる民間企業が、工房 兼 カフェをオープンさせるという。JR郡山駅 西口に入ると真っ先に目に飛びこんでくるオシャレなカフェ「向山製作所」の本社は、大玉村にあるのだ。
「直売所」が村民の行きかう“憩いの場”となり、「食堂」は村の料理を楽しめる“おもてなしの場”となる(主な顧客は年輩・シニア層)。そこに、若者たちが行きたがるオシャレなカフェまで出来れば、この地区全体がまさに村の活力を生む拠点になるだろう。
週末の「お食事処 たまちゃん」では、村民が持ち回りでそば打ちを実演している。押山村長もときどき紛れて(!?)いますので、よ〜く見てくださいね!
大玉村、そして「大玉村づくり株式会社」の挑戦は、まだまだ始まったばかり。この先うまくいく保証はない。けれども、好循環が起きつつあるのは確かなようだ。
郷土料理を食べながら、民話を聞かせてくれる「森の民話茶屋」(「大玉村ストーリー #4」で登場予定)を訪ねると、地元の団体が食事をしながら民話を聴き入っていた。村の人が、村のことをもっと知ろうという動きが、どんどん活発化しているという。
「すごいプレッシャーですよ。友だちにも「株、買ったからな!」とか言われますし……。嬉しいけど、責任の重さを痛感します」と、矢吹店長。それでも今は、仕事が楽しくて仕方がない。大変といいながらも、目は輝いている。当サイトでは、ひきつづき 大玉村&「大玉村づくり株式会社」の挑戦を応援・お伝えしていきます。
「あだたらの里 直売所」
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【住所】福島県安達郡大玉村大山字新田10-1
【TEL】 0243-48-2317
【営業】8:30~18:00(10月~3月は 17:00閉店)
【定休日】年末年始のみ