ここのところ漬物の紹介が続いたせいか、「しみじみおいしい」という言葉を何度も使っていました。書きながら「それって、どんな味?」と自分でツッコんでもいたのです。
味覚なら、「甘味、酸味、塩味、苦味、旨味」の5味に分けられる。これは和食・洋食を問わず共通。ここに「しみじみ(味)」なるものは存在しない。味覚ではなく、おいしさの感じ方、心のありようだから当たり前ではあるけれど…
漢字で書くと、染み染み、または沁み沁み。実際に染めるわけでないから、心に沁(し)みるの「沁」の字の方が良さそう。ついでに和英辞書もひいてみると、keenly(鋭く)とか deeply(深く)と訳されている。切実においしい…? ちょっと、違う気がする。英語圏では、なにかを食べてしんみり懐かしんだり、愛(いと)おしくなったりしないのだろうか?
そこで思ったのです。「しみじみ」には、「懐かしさ」と「愛しさ」が必要である。懐かしいときは、I miss it(懐かしいわ…)、愛おしいときは I loved that(愛してたのよ…)というのだから、先ほどの辞書の訳より “しみじみ” 感に近い気がします。
なんの話? そう、私はこの梅漬けを食べて、しんみり愛しい気分になったのです。
けっして料理上手とはいえないうちの母も、梅はよく漬けてたなぁ… 飴色に輝き、その濃さを日に日に増していくさまを眺めるのは、たのしかったなぁ… と思い出したのです。 子どもですから、梅酒も梅漬も食べるのはスキでなかったけれど、キレイな梅漬を眺めるのはなぜか “イイ気持ち” でした(ヘンな子でしょうか?)
そうこう考えるうちに、漬物を食べては “しみじみおいしい” と言っていたなぁ… それって、なに味? と浮かだのです。そして、この『カリカリ梅のブランデー漬』は、なぜか懐かしい。眺めていると、愛おしくなる。
甘さが丁度いいとか、酸味とのバランスがとか… そんな「味覚」の話じゃない。「おいしい梅漬」であるのは、もはや当たり前。それよりも、おいしさにプラスして、やさしい気持ちになれるとか… そんなことの方が、うれしい。
『カリカリ梅のブランデー漬』をつくる長野県阿智村(「日本一星空がキレイな村」として知られる)の金子さんが言っていました。「若梅はカリカリ感とキレイな翡翠(ひすい)色、両方を出すのが難しいんです」。
たしかに、我が家の梅漬はこんなにキレイな色でなく、もっとシワだらけだった。ここまで仕上げるのは、さすがプロの技なんだなぁ… そんなことに想い巡らせていると、たかが梅漬が愛しく見えてきます。
「あちの里」では、おばちゃん(いえ、お姉さん)たちが全部手づくりしているので、あまり沢山はつくれませんが、しみじみおいしい『カリカリ梅のブランデー漬』、できました。