「これぞプロの技!」と唸る料理がある一方で、「しみじみと心に沁(し)みる味」と呼びたい料理もあります。南信州・阿智村の味噌や漬物は、素朴だけど心にとどく味。その良さをどう伝えたらいいのだろう… しばらく迷っていました。
例えば「ゆず味噌」。甘辛い信州味噌に、地場産ユズの香りがひろがる。ご飯につけると、もうそれだけで、しみじみと愛おしい。あとは漬物があれば、立派なごちそうになる。高級レストランの味とは、別もの。
たかが、味噌。
たかが、漬物。
「漬物なんて…」
この言葉で思い出したのが、とある映画のワンシーン。
監督:山田洋次 原作:藤沢周平 主演:真田広之、宮沢りえ 主題歌:井上陽水
いよいよ明日、果たし合いに行かねばならない。命を落とすかもしれない。最後のご膳。なにを食べますか?
「ご飯と漬物でいい」。そういう夫(侍)に、妻がつぶやく。「漬物なんて…」。今生の別れかもしれないのに、最後に漬物……。
「男はつらいよ」シリーズで知られる山田洋次 監督は、時代劇でも家族の食卓シーンを大切にしている(「たそがれ清兵衛」「隠し剣鬼の爪」「武士の一分」が時代劇3部作と呼ばれる)。3作の内容については、記憶が入り混じってしまったけれど、なぜか「漬物なんて」のセリフだけは鮮明に覚えている。予告動画(上掲)を見ていたら、ゆず味噌と漬物のイメージが重なった。
“ 誰を、幸せにしたいですか? ”
“ 誰といると、心が素直になれますか? ”
“ たそがれ時は、誰と会いたくなりますか? ”
思い浮かべる人や景色は違っても、誰にでも大切にしたい記憶はあるはず。「あちの里」の味噌や漬物は、なんだか「やさしい気持ち」にしてくれるのです。
作っている “お姉さん” たち(「あちの里」のメンバーは若い!)には、買ってくれた人がどんな食卓を囲むかまでは分からないけれど、1人ずつが、食べる人の顔を想像しながら作っています。ラベル貼りも、ビン詰めも、手作業で1つずつ。
大量生産はできませんが、このやさしさ、受け取ってもらえると、うれしいです。「たかが味噌。たかが漬物。されど……」。そう続くはずです。
『鬼くるみ味噌』 500円(税込)
『ゆず味噌』 320円(税込)
『みょうがの甘酢漬』 440円(税込)