カッコいい伝統文化は受け継がれる。カッコ良くないから支持を失い、途絶えてしまう。そういったら、いい過ぎでしょうか?
郷土料理も同様に、おいしければ求められ、受け継がれる。そのうえ、見るからに “そそられる” 料理ともなれば、なおさらです。
南三陸町の「はらこ飯」を見ると、そう思えてきます。
ここは宮城県南三陸町。震災後の仮設商店街から発展した「南三陸さんさん商店街」を中心に “三陸で最も元気な町” をかかげ、町内外から人を集めています。
ヤマウチ鮮魚店の山内正文 社長は、そのにぎわいを生む中心メンバーの1人。津波で自宅も、自社工場も、全て流されたにも関わらず、わずかひと月後には仮設店舗を再開し、周囲を鼓舞しつづけた方。
今や商店街名物になった「キラキラ丼」も、山内社長が呼びかけ事業者仲間が競い合うようにして広めました。ウニ、イクラ、アワビ、タコ、イカ… 文字どおりキラキラに輝く地元の海の幸を、思う存分どんぶりに盛りつけ、ふるまう。
いわゆる “映(ば)える” メニューの先駆けで、週末にもなれば人気店の前には長蛇の列ができます。




画像参照:南三陸町観光協会
「キラキラ丼」は現地でしか食べられない限定メニューですが、きらめき具合では負けない人気メニューがあります。それが『はらこ飯セット』。
「はらこ」とは「腹子」で鮭(サケ)の卵(イクラ)のこと。宮城県内 第1位の水揚げ量を誇る南三陸町の鮭とイクラを豪快に盛りつけます。鮭の親子丼(シャケ・イクラ丼)や海鮮丼に似ていますが、酢飯ではなく、鮭の「炊きこみご飯」といっしょに食べるのがポイント。
かつては伊達政宗にも絶賛されたといわれる、長い歴史ある宮城県の郷土料理です。それが今なお、ヤマウチ鮮魚店の人気メニューとして受け継がれています。
おいしくなければ、これほど長い間、支持されたりしません。見映えの華やかさも、時代を超えて受け継がれる理由でしょう。もともとは漁師メシだった料理が、祝いの席やハレの日にも好まれるようになりました。
なにしろ、この華やかさ。
おめでたい日にピッタリです。
「素材が良いんだから、よけいなことはしなくていい」
山内社長は、こんなことを言っています。
世の中、よけいなものを使った商品が多すぎる。幸いにもここ南三陸町は、素材に恵まれているから、そうしたもの(添加物)に頼らずとも、シンプルに調理すれば喜んでもらえる。
この『はらこ飯セット』も、もちろん 保存料・着色料 無添加。原料は地場産のもの。それらは、ことさら強調することではなく、山内社長にとって「当たり前」のこと。
今かりに景気がよくても、近くに別の商店街ができたら、すぐ人は流れるかもしれない。なにしろ今は、海そのものが変わっている。魚が獲れなくなり、人も減る。
今よければ良いのか、先を見すえて手を打つか……。幸いここは小さい町だから、どこかに弱っている人がいれば見える。お互いさま、おかげさまです。
まずやってみて、見えてくることってあるでしょ。行事でも、料理でも。
そう語る山内社長の『はらこ飯セット』は、郷土の歴史を受け継ぎながら、現代の暮らしにあった便利さを備えています。炊飯器1つでできあがり。
● 1〜2合のお米を研いだら「はらこ飯の具(汁)」と水を加える
● 炊飯 スタート
● ご飯が炊けたら、具(切身)と「いくら醤油漬」をのせる
以上!
味、見映え、お手軽さ。
人気が出るのも納得です。
シンプル なのに、おいしい。
シンプル だから、おいしい。
いずれにしても、旨いのです。
「今まで夢中でやってきたから、これからの方が大変なのかもしれないね。」
山内社長はそうも言っていましたが、こうして伝えられた料理は、きっと次の世代へも受け継がれるでしょう。
「大切だから、守りましょう」より
「おいしいから、食べてみて」。
そう胸を張っていえる「はらこ飯」です。ぜひ、おためしあれ。