富士見堂せんべい

【東京 下町】富士見堂せんべい・佐々木社長に聞く「東京・江戸ブランドが今、求められている」

東京・下町の小さなせんべい屋が、都内屈指の激戦区・JR東京駅グランスタや東京スカイツリータウンなどで指折りの人気店となる。まるで夢物語のような話ですが、それを実現した老舗せんべい屋が、葛飾区青砥に本店を構える富士見堂です。ただしその道のりは、人に羨ましがられるほど平坦なものではなく……。

職人の伝統と変わりゆく流行の狭間で、進化をつづける企業の変遷を3代目店主・佐々木健雄社長に聞く【シリーズ後編】。

↓ 【前編】はコチラ ↓
富士見堂せんべいバナー

「お米の味がしっかりとするせんべい」。その理想を追い求め、職人の技を磨いてきた富士見堂ですが、せんべい屋をとりまく環境は急速に変わっていく。はたして、このままでいいのか?

父から事業を引き継ぎ、変革の先頭にたった3代目・佐々木健雄社長は、「モノづくり」は大切だけれど、それだけで存続するのは難しいと判断します。いいモノをつくれば、売れる。かつてはそう考えられたものの、今はモノも情報も溢れかえっている。技術進化により、大量生産=粗悪品とは限らない。ならば、自分たちの商品や技が、他とどう違うのか? しっかり伝え、分かっていただくことが必要。

そのためには、パッケージ・デザインだけではなく、商品の陳列や店構えまで、自社で責任を持つしかない。その考えが、商品の届け方 =「モノの流れ」(物流)に目を向けることになる。

富士見堂せんべいフロー

その結果、多くのせんべい屋が大手メーカーやスーパーに淘汰されていく中…

せんべい工程2

富士見堂は直接お客様とつながることで、「富士見堂せんべい」のファンを徐々にだが獲得していく。

富士見堂せんべいフロー

他者(とくに量販店)に依存すれば、売上規模は伸ばせるが、価格競争を余儀なくされる。「モノづくり」の伝統を受け継ぎつつ、「モノを伝え」「モノを届ける」まで自社で行う。それは “とにかく沢山売る” ことから、価値を認め “支持してくれる人へ届けていく” ことへのシフトでもあった。「そうしていく」と腹をくくった。
富士見堂せんべいの4P

取引先を中間コストと見るか、ご縁を広げるパートナーと見るかで、結果はまるで違ってくる。

富士見堂せんべい

物流フローを一見すると、「中抜き」を進めているように見えるかもしれません。実際、中間業者をとばして、自社利益を上げる手法は、企業が「合理化」するうえでよく行うことです。しかし、富士見堂の場合、非効率なことの積み重ねの末に、道が開けた といった方が、実態に近いのです。

かねてから、オリジナルせんべいを焼く富士見堂へは、百貨店などから催事への出店の誘いがあったといいます。そのお声がけに富士見堂は、丁寧に応えました。実をいえば、短期的なイベント出店は思いのほか手間やコストがかかり、採算を考えると割に合わない。それ故、敬遠する企業が多いのです。

ところが富士見堂は、こうした催事に出来るかぎり参加します。せっかく声をかけて下さった先方の意向がある。それは相手からのご厚意ともいえる。「まぁ、お互いさま、おかげさま。お付き合いも大事です」。そう考えるのが、富士見堂・佐々木社長らしいです。義理・人情の厚い、江戸っこ・下町情緒が今なお息づいている、ともいえるかもしれません。(ここは「寅さんの町」葛飾・柴又のすぐおとなり)

富士見堂せんべい職人

せっかく参加する以上、短期出店とはいえ店づくりの手は抜きません。「常に誰かに見られている」。そう意識して、会場に立つといいます。実はここに、富士見堂 飛躍の秘密の1つが隠れています。「百貨店の催事には、他社の催事担当者もだいたい来ていることが多いんです」。

富士見堂に加わる前、服飾業界のセールスマン経験がある佐々木社長には、「それは業界では当たり前」のことでした。出店に際しては、そんな計算もしていました。そして「実際に会場に来ていた別の催事担当者から声がかかるのは、1度や2度ではなかった」といいます。

こうして「モノづくりの先」を充実させて、誰もが羨む商業施設への出店の道が拓けていきます。

富士見堂せんべい
非効率だからと他者を切り捨てていくのでなく、1つ1つのご縁を丁寧にすることで、信頼を積み重ねていった。

変革を迎え、そのとき社員は? 一緒に東京の「味の文化」を広げていく

長く受け継いだ商品やパッケージの変更だけでなく、事業形体のシフトなどさまざまな変革に着手する佐々木社長。伝統ある会社だけに変化への不安や抵抗はなかったのだろうか? 新たに経営を託された若社長にベテラン社員が反発する例は、珍しくありませんが……。

「今うちには、比較的若い社員が多いです。工場長も50才になったばかりですし。若い人は昔の人ほど根性論では続きませんが、認められると非常にガンバれる。自分がつくったせんべいが、東京駅やスカイツリーのお店に並ぶ。それを見た友だちが、スゴいといってくれる。そうしたことがモチベーションになるようです」。

富士見堂せんべい

社長自身が1人ずつと面接し、採用した社員と一緒に商品も社風もつくっていく。パートさんも主婦目線のアイデアを積極的に出し、その声が商品開発に反映される。

職人の高い技術がベースにあるからこそ、新たなデザインや規格も安っぽくならない。伝統と流行、ベテランと若手が、いい塩梅に中和していく

それがまた、富士見堂の力となる。

ひとつの大きな変革の波を乗りこえたように見える富士見堂は、これから先どこへ向かっていくのでしょうか? この疑問に対し佐々木社長は「 “東京のもの” が今、求められている」といいます。

「東京は(食材の)産地ではないから、独自ブランドができないかというと、そうではないと思います。東京は “味の文化” です。いろんなものを組み合わせて、おいしいものをつくり上げています。

今度「千住ネギせんべい」を発売しましたが、これには東京・千住に受け継がれる伝統的なネギを使っています。完全な自給自足はできなくても、それぞれの価値を見出し、届けていく。そこへのニーズは、高まっているのを感じます」。

地方から見れば巨大な消費地である東京も、地元ブランドを発信する発信地になれる。今回、ご縁の発端となった、信州・木曽町の小池糀店さんとのコラボ作『木曽味噌せんべい』もそうです。東京と長野のどちらにとっても完全な自給自足ではありませんが、両者が加わることで、より強いメッセージを届けられる。

富士見堂 木曽味噌せんべい

伝統を受け継ぎながら、新たな価値を生む。老舗せんべい屋・富士見堂の人気の秘密は、こんなところにありそうです。

 
葛飾区青砥の本店へは、佐々木社長と話をしている間も、地元のおじさんやおばさんが買い物にやってきました。富士見堂のせんべいは、決して安くはありません。スーパーやコンビニにいけば、他メーカーのものがたくさん並んでいます。それでも「富士見堂さんのおせんべいを…」とお客さんはやってくる。

昔からの常連さんは、すっかりオシャレになった店内に、どんな気持ちで入るのだろう? ちょっと恥ずかしげに、でも楽しそうに入って、品定めをしているように見えます。今度、お店のお客さんに話を聞いてみたい。そう思える、おだやかな空気が、富士見堂には流れています。

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木曽味噌せんべい

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