【吉野町 #4】「日本で最も美しい村」から世界に発信 〜 国栖(くず)の里に伝わる「おふくろの味」

「死ぬ前に1度は見ておけ」といわれる吉野の千本桜はすでに散り、新緑の季節を迎えんとする今、この話をするのも恐縮だがご容赦願いたい。

まだ寒い頃の話だ。晴天がつづき、空気は澄みきり、夜には満天の星空が広がる。そんなある朝、起きて戸を開けると、あたり一面銀世界。昨日までとはまるで違う顔を「日本で最も美しい村」の1つ、吉野町は見せてくれた。

千本桜や金峯山寺 蔵王堂とならび、吉野町の「最も美しい」場所として紹介されることの多い国栖地区に来たとき、同行の方がこう言った。

「この集落では昔、大海人皇子(後の天智天皇)が敵の追っ手から逃れ、舟の下に隠れたときに犬が舟の周りで吠えて見つかりそうになったため、村人が犬を殺し皇子を救いました」

以来、この地区で犬を飼う人はおらず、それは今なお続いている(神社の狛犬さえない)。

私は決して、歴史通でもマニアでもないが、日々の暮らしの中にこういう“物語”があって、語り継がれていることは、単純に「いいな」と思う。

大学教授や郷土史家のような人ではなく、“ふつうの人”がサラリと、当たり前に語れるのが良い。「ぼくたちは物語を伝えなきゃいけないんです」といった、葛屋 吉野春風堂 店主・中井孝嘉さんの言葉が思い出される。

子どもの頃から転勤族の家庭に育ち、“ふるさと”がない私にとっては羨ましくさえある。

こういう町並みを眺めていると「こんな所に住んでみたい…」という感情が湧く。もちろん“実際に住む”と“見る”とは大違いなのは分かる。隣の芝生はいつも青いから。

例えば、犬がいないというのは、他の生き物にとっては余計なストレス「圧」が無いということで、イノシシや鹿が平気で(?)人里に現れる。美しい佇まいの民家も、冬は寒くて辛かろう。それでも「いいなぁ」と思わせる力が、この土地にはある。

「なにが売れるなんて、やってみないと分からないでしょ!」母さんたちの強みは、明るさと行動力

そんな「美しい村」での暮らしは、どんなものなのか?家並みは外から眺めることはできても、なかの暮らしまでは分からない。外国人旅行者の多くが、今やホテルや旅館よりも一般家庭の「民泊」を好むのは、何も安さだけが理由ではない。この「中を見たい」という願望が必ずある。

私の場合、特に「中でどんなものを食べているか」に興味が湧く。その好奇心に駆られて、地元・道の駅等にお惣菜を出品している「燦・産・参」(通称:ハツラツグループ!) 代表の桝谷スマ子さんを訪ねた。

桝谷さんはもともと小学校の先生だった。退職後「家でジッとしてても退屈してしまうでしょ」と、友人に呼びかけて手料理の製造・販売を始めた。「最初はストーブを炊く経費も賄えなくて」と笑う。

何とかしようとあちこち見学に出かけ、地元で評判だった和菓子屋さんが高齢のため店じまいすると聞いては、訪ねていって教えを請うたりした(ついでにもう使わなくなる製造器具も貰い受けた!)

そうこうするうちに、徐々に品揃えが増え、売上も伸びていく。最近のヒット商品は『切り干し大根の佃煮』だ。海なし県の奈良の中でも、さらに山深い里でつくられるこの佃煮には、ヒジキやジャコなど「海の幸」も使われている。

無いからこそ保存食をつくる知恵が生まれ、それを生かす料理が考案される。かの有名な「柿の葉寿司」のような発酵・保存食がつくられたのと同じ理由だ。

もちろん、在るものは存分に生かす。古くから自生するユズは、味噌にも入れるし菓子にもする。「なにが売れるかは分からないし、何事もやってみないと分からないでしょ!」と桝谷さんは朗らかに言う。愉しんでいる。

今や自宅脇にあった蔵は、改装されて保健所の許可を得た専用加工場だ。最初は村で使われていなかった共同施設のキッチンを借りていた。仲間の輪も徐々に広がり「時給もちょっとだけ払えるようになった」と喜ぶ。

リスクを抑えて、出来ることから、まずはやってみる。
フットワークの良さとポジティブな気持ち。周りを巻きこむ力。

まるでベンチャービジネスの起業論だ。
「そんな大袈裟なもんじゃないわよ!」と、本人たちは笑うだろうけど。

桝谷先生

地方にある「道の駅」が人気を呼び、地域活性化の原動力として女性の活躍が注目されるのも、こんな桝谷さんのような人がまだまだ沢山いるからだろう。

そんな人たちともっと出会い、つなぎ、広げていきたい。

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