大手メーカー製品から小さな村の醸造所のものまで、全国各地にいろいろな醤油がある。買うときに何を見て、どこまでこだわるか。ズラリ並んだスーパーの棚の前で、消費者は迷う。つくり手も迷っている。
料理の「つま」よろしく、醤油ももう自分では買わない人が珍しくなくなった。家で料理をしないのだ。出来合い品には「しょうゆ」が付いてくる。文字どおり精魂こめ、1年もの歳月をかけて作り出した醤油との違いに、果たして食べる人は気づいてくれるだろうか? つくり手も迷っている。
奈良県吉野町 宮滝地区にある「梅谷醸造元」を訪ねる。
万葉に詠われる明媚な「吉野宮」があったこの土地で、梅谷清嗣(きよつぐ)さん・清二さん兄弟がわずか5人ほどで昔づくりの醤油と味噌を受け継いでいる。
蔵に入るとすぐ巨大な杉樽が目に飛びこんでくる。これほどの樽で、今なお醤油づくりをつづける醸造元はもう国内にいかほどあるか。
なにしろ仕込みから、でき上がりまで最低1年かかるのだ。合理化が進み、あらゆる“非効率”が悪とされがちな現代の経営において、こうした醸造法を守ることが果たして“理”に適ったものなのか。
1年かけて熟成した天然醤油に、さらに麹を仕込みもう1年寝かせる「再仕込みしょうゆ『舌つづみ』」まで作っているのだ。
でき上がりまで、丸2年。発酵を促し、菌たちが少しずつ、少しずつ、旨みを醸し出してくれるのを、根気強く待たねばならない。その間、世間ではさまざまなトレンドが生まれては、消えていく。迷うなという方が、無理な話ではないか。
危機だからこそ、面白い。ただし、そのときに「本物」がないといけない。
それでも梅谷さんたちは、明治から100年以上つづくこの蔵で、昔ながらの醤油&味噌づくりを続けている。
その歩みを止めてしまうのは、簡単だ。すでにこれほどの大樽を作れる職人も、材料となる大木も、見つけるのは非常に困難になっている。
しかし、「梅谷さんところの宮滝醤油を」と指名買いしてくれるお客さんがいればこそ、止めることなく続けている。
目に見えないが、もう1つとても大切なものがある。
「蔵つき酵母が、うちの味そのものですわ」、清嗣さんがいう。
受け継いだのは蔵だけでなく、そこに100余年かけて棲みついた酵母もだ。
この蔵つき酵母こそが、醤油の旨みをつくる。
蔵を“工場”にしたとき、蔵つき酵母はもう居ない。
伝統を受け継ぎながらも、梅谷さんたちは新たな展開にのり出してもいる。
つぎつぎと新作を生み出しているのだ。
「今は危機やけど、ある意味なんでもありで面白い。昔やったら“規範”があったでしょ。こうせなあかん、という。今はそれが、良いか悪いかはともかく無くなって、やりたいことは何でもやれる。」
そういう清嗣さんからは、頑固な職人さんのイメージは浮かばない。
「僕は元々木こり、林業の方が専門やったんで、醤油のことは本当は弟に聞いてもらった方が良いんです。スンマセンなぁ」という姿は、むしろ気さくな“大阪のおっちゃん”といった雰囲気だ。それでも、
「そのとき“本物”がないといかんでしょ。中身あってこそやから。本物が何か、というのがまた難しいんですけどね」
そう笑う清嗣さんの眼には、やはり職人魂が宿っている。
マツコも、ハリウッド女優も魅せられる。梅谷醸造の「宮滝ぽん酢しょうゆ」。「サクサク醤油飴(あめ)」もオススメ!
芯がありながら、ユーモアも忘れない梅谷さんだからこそだろう。各界の「本物」が認め、愛用する。
まずは「奈良」を世界の映画シーンに広め、伝える、河瀬直美 監督。カンヌ国際映画祭グランプリをはじめ数々の世界的賞を受賞している同監督が、長きに渡るファンというのが『宮滝ぽん酢しょうゆ』!
天然醸造醤油をベースに、爽やかなユズ風味が強いインパクトを残す逸品だ。定番の鍋料理はもちろんだが、醤油代わりにお刺身や焼き魚、豆腐料理に、肉料料理まで、万能調味料として何にでも使えてしまう。
その河瀬監督が昨年末、梅谷醸造さんにビックリゲストを連れてきた。
今年(2018年)公開予定の新作『Vision』で永瀬正敏さんと共にダブル主演を務める、オスカー女優、ジュリエット・ビノシュだ。
世界を旅しながら紀行文を執筆しているフランスのエッセイスト(ビノシュ)が奈良を訪れ、現地で出会う山守の男(長瀬)と心通わせていく、というストーリーらしいのだが、そのビノシュさんは梅谷さんとも共鳴したようで(!?)、フランスに醤油&ぽん酢を持ち帰るといって沢山ご購入されたらしい。
(知らぬ方のために補足しておくと、ジュリエット・ビノシュさんとは、
世界三大映画祭の全てで主演・助演女優賞を受賞したフランス出身の超大女優です!!)
さらに、もう少し身近な話題としては、TBS系 TV番組 『マツコの知らない世界』の「ポン酢の世界」にも『宮滝ぽん酢しょうゆ』は登場し、マツコ・デラックスを唸らしめた。
こうして各界の著名人を唸らせるのも、梅谷さんが「本物」を守り続けているからこそだろう。
ぜひ、この味、この心が、さらに多くの人たちの知るところとなり、広がることを願わずにはいられない。
「梅谷醸造元」
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【住所】 奈良県吉野郡吉野町宮滝262-2
【TEL】0746-32-3206(フリーダイヤル:0120-39-3206)
【営業】 年中無休( 8:00~19:00 )