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【特別対談 #3】日本画家 アラン・ウェスト 〜 美しき日本を求めて。

理想とする絵を描くために自ら考案したと思っていた絵の具は、実は日本に存在していた!? そう知った青年アラン・ウェストは、まだ見ぬ顔料をもとめ日本にやってきた。当時、大学1年生。「日本には少しいたら十分…」と思っていた当初の思惑とは裏腹に、滞在は30年を越し、今は東京・谷中でアトリエを構える。来日以降「日本の美」を見つめ続けてきたアラン・ウェスト氏に、日本文化の変遷を訊く対談シリーズ 最終回。

【第2話】「影を追いやって、日本は大切なものを失った」はこちら

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ーー 『陰翳礼讃』や先ほどの蛍光灯の話などを考えるとき、つい頭をよぎるのが、『美しき日本の残像』(アレックス・カー著)という本のことです。私はこの本に学生時代に出会って、とても強い印象を受けました。

カー氏は、故・司馬遼太郎さんとの対談でこう言っています。「私は本当に美しい日本を見ることが出来た、最後の世代かもしれない」と。カー氏が初来日したのは、1960年代です。このときに「まだ美しい日本が生きている時代に、ギリギリ間に合った」と言っている。

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ウェスト  私も『美しき日本の残像』は、読みました。当時、私の周りにもいろいろあって、その内容にとても感じ入るところがあり、カーさんに直接手紙を書きました。

そしたら「君が本当に読んだはずがない。昨日、原稿(英題『Lost Japan』)を入稿し終えたばかりなんだから!」と言われました(笑)

ーー まさか日本語で読んでいるとは思ってもみなかったのですね(笑) でも、アランさんとカーさんが友人であるなんて驚きです。世界は狭いですね。

ウェスト  彼は書(書道)をやりますが、墨だけでなくいろんな顔料も使うので、そんな点でも共通することは多くあります。

数年前、京都の画材屋さんに入った際に、バッタリと彼に出会ったりもして、不思議な縁も感じます。

ーー そのカーさんは、著書の最後にこうも述べています。「もう日本がかつての美しさを取り戻すことは、出来ないだろう」と。かなり悲観的な意見です。

そしてもはや日本を見限ったかのごとく、タイなどで多くの時間を過ごすようになりました。もはや心の中にしか残らない「美しい残像」に想い馳せるかのように……。

ウェスト  出版した当時の日本の状況には、本当に失望していたようですね。司馬遼太郎さんのような一部の人を除いて、ほとんど聞く耳を持たない状況でしたから。

でも今になってようやく、時代が彼のほうに向いてきているのではないでしょうか。

彼が心血を注いだ徳島県祖谷の『篪庵』(ちいおり)だけでなく、長崎や香川などでも町づくりのアドバイザーとして活躍しているようです。

そんな辺境な地にも海外からの旅行者が増え、それがまた日本のメディアや町づくりに携わる人の関心を集めています。

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若い人のほうが心地よいものでさえあれば、違和感なく受け入れられる。

ーー それにしても、アランさんにせよカーさんにせよ、どちらも外国からの来訪者です。岡目八目とか灯台下暗しといいますが、外からみた方が先入観のない眼で、文化の価値や美を観察することができるのでしょうか?

本来なら日本人自身が誰よりもよく自らの文化を知り、受け継ぎ、語ることができないといけないのですが……。

ウェスト  そういう意味では日本の若い人の方が、これからは期待できるのかもしれません。

先ほどのカーさんの話もそうですが、私が20代で日本に来たころは、西洋文化はなんでも無批判に受け入れるような雰囲気がありました。

日本の伝統文化は、古くて暗くて、恥ずかしいみたいな……。

幸か不幸かそれにより文化の伝承が途絶え、今の若い日本人の多くには逆に、日本ならではの文化や芸術が新鮮に映り、自分の身近なところに違和感なく取り入れることができるようにもなっています。

ウェスト  例えば、こうした掛け軸は、伝統的な考え方では、和室の床の間にしか飾らない。床の間どころか和室さえ今の多くの日本の住宅には無くなってきていますから、もはや掛け軸なんて要らないと考えられてしまいます。

ところが、若い人にはそうした床の間じゃないと… という概念がないから、その掛け軸が自分の感性にフィットし、心地よいものでさえあれば、別にコンテンポラリー(現代的)な自分の部屋に飾ることも違和感なく受け入れられる。

先に、「僕にとって絵は、おもてなしと一緒です」といいましたが、作品自体がおもてなしであれば、問われるのはそれを置く場所ではなく、それを見る人の心と絵それ自体になります。

あまり「これはこうでなければいけない!」と決めつけてしまうと、工業製品のように規格化されたもののようで、息苦しくなってしまう。

とり入れるのも、遠ざけるのも、その場その場で変わってきて良いのではないでしょうか。

「美しいもの」って、美術館の中でなく、ふだんの暮らしの周辺にこそある。

—— なるほど。芸大時代の恩師である加山先生が、「あなたに日本画界の刺激になってほしい」と仰ったそうですが、そういう柔軟な発想があるが故に期待されたことがあったのではないでしょうか?

ウェスト  そう仰って下さったのは、とても光栄ですけど、それについてはあまり考えないようにしています。

考えすぎて、何かすごく大きなものを背負った気になると、窮屈になってしまいます。組織にとらわれないで、自分らしくやっていこうと思います。

結果としてなにか、貢献できることがあれば幸いですが。

—— 絵の対象だけでなく、ご自身の姿勢も自然であることが1番なのかもしれませんね。

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最後になりますが、この記事を読んでくれている多くの人が、日本のどこかで「美しいもの」や「こと」に携わっている人です。日本画というまさに美を追求する人として、なにか思うことがあれば教えてください。

ウェスト 「美しいもの」といっても、べつにかしこまった芸術とかアートに限らないと思います。例えば、ここ谷中がなぜいいかというと、街を歩いていると窓越しに夕餉(げ)の支度をする音が聞こえてきたりする。「今日はカレーかな?」とか、「あっ、子どもがお風呂に入ってるな」とか、そんな暮らしの情景が浮かんでくる。

私は、旅先の知らない町で、どこかもどかしい思いを感じることがありますが、それはただ観光地を見てホテルに泊まるだけでは、表面的なものしか見えなくて、その土地で暮らす人の生活までは分からないからです。“ふつうの暮らし” に触れられない。谷中だと、そうした暮らしがとても身近に感じられます。

玄関先をキレイにするとか、ご近所さんとの通りすがりの会話とか……。昔の縁側文化みたいなものが感じられて、周りの人への気遣いとか気配りがある。

「美しいもの」とは、べつに美術館にあるものではなく、身近な暮らしのその周辺にあるのではないでしょうか。慌ただしさの中でつい通りすぎたりしてしまうのだけど、“丁寧な暮らし” のなかに実は「美しいもの」ってたくさんある。

そんなことに意識を向けられたら、毎日の暮らしも少し幸せに近づけるように感じます。

(終)

聞き手:にっぽんマルシェ 渡辺

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「繪処 アランウエスト」
ーーーーーーー
【住所】東京都台東区谷中1−6−17
【開館時間】13:30~16:30(日曜日のみ 15:00〜16:30)
【休館日】木曜日

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